この記事を書いたライター

西繭香

西繭香

1992年生まれ。20歳の時に現在のパートナーと出会うまで、自分をマジョリティだと思っていたセクシャルマイノリティ(あと腐女子)。 「どんな人にも優しい記事」を目標に、多角的な物事を等身大の視点から分かりやすく執筆している。人の話を聞く事と、ディズニーシーと猫が好き。 Twitter: @Nishi_mayuka

2019年8月14日

好きを叫ぶ応援上映に行ってみた! 映画業界の新戦略とコアマーケティング

2019年8月某日。池袋の某映画館で、あるアニメ作品の“応援上映”が行われました。

上映された作品は「さらざんまい」。2019年4月から6月までフジテレビで放送されたアニメーション作品です。地上波で放送された全11話のアニメーションが、約5時間をかけて映画館の大スクリーンで一挙に上映されました。

今回、この作品の大ファンである筆者が、実際に“応援上映”に参加しそのユニークな空間を体感してきました。近年女性や若者を中心に人気が急上昇している“応援上映”とは、一体どのようなものなのか。そして、なぜ人々は“応援上映”に夢中になるのか。その謎に迫ります。

応援上映ってなに? ひな形を作った“伝説的”映画の存在

なにかを応援するって一体感が生まれますし、なにより楽しいですよね

応援上映とは、映画館において映画の上映中に、観客が大声を出すことが認められ、推奨される上映回のことです

同様のものに「発声(型)上映」「声出し上映」「絶叫上映」などがありますが、意味合いはどれも同じ。つまり「映画館で映画を見ているけど、静かにしていなくてもいい」のです。

「静かにしていなくてもいい」とは具体的にどのようなことでしょうか。たとえば映画中の盛り上がるシーンに合わせてかけ声をかけたり、突っ込みを入れたり、登場人物を文字通り“応援”するように声を出してもいい、ということです。

会場に響き渡るほど大きな声で“応援”しても、誰もとがめませんし、“応援上映”とはそういうものなのです。

とはいっても、関係のないことで騒いだり、公序良俗に反した格好をしてもいい訳ではなく、あくまで作品をより楽しむための行為だけが許可されています

いくら楽しい応援上映も、“ルール”と“マナー”を守らなければただの“うるさい上映会”になってしまいます。

最も大切なのは、「作品を野次るような発声は絶対にしない」こと。会場には作品をこよなく愛する方が集まっています。好きなものをおとしめる発言は、聞きたくありませんよね。

参加者全員が「その言葉は誰かの気持ちを否定して、傷つけるものではないか」と、一度立ち止まって考えることで、応援上映は初めて成り立つのです

また当然ですが、他の観客の迷惑になる行為は禁止されています。会場によってルールが異なる場合もありますので、参加の前に必ず映画館の公式ホームページを確認しましょう。

この動画は、応援上映ブームの先駆け的存在、「KING OF PRISM」、略して“キンプリ”の応援上映の様子です。

キンプリとは、まだ応援上映が一般に浸透していなかった2016年に、低予算で制作・公開された映画で、最終興行収入8億円を記録した大ヒット作です。

サイリウムやかけ声、コスプレなど、応援上映のひな形を作り上げたキンプリ。続編も複数制作されており、応援上映業界において伝説的作品と言えます

その後、「名探偵コナン」や「ボヘミアン・ラプソディ」などの有名作も応援上映を実施するようになりました

多様な気持ちを共有することで生まれる、応援上映の真価とは

映画館で、応援上映だからこそ得られる、価値があります

今回筆者が見に行った応援上映は、2019年春に地上波で放送されていたアニメーション作品でした。映画館でしか放映されない作品ならまだしも、地上波で放送されていた作品を映画館に出向いて有料で見る価値は一体どこにあるのでしょうか

筆者が実際に体験してみて感じたこととして、まず好きな作品を大スクリーンで見られること、そして、作品のファンしかいない場所でリアルタイムに感想をシェアし、相互承認しあえる空間にあるのではないかと考えます。

それは自宅で作品を見ているだけでは得られない体験です。大スクリーンだけでなく、広い映画館に集まった多くの人が自分の気持ちにしたがって「好き」を表現し、互いを肯定する空間に、単なる“作品の上映会”以上の価値があるのではないでしょうか。

作品にもよりますが、筆者が今回行った応援上映は特に運営側から指定されたかけ声もなく、先導的に声を出す方も目立っておらず、各々がパッションを自由に発声として昇華している印象を受けました。

みなさん好きなキャラクターも違えば、好きな場面も違います。笑い声も泣き声も叫び声も、いたるところからバラバラに聞こえてきます。そんな多様な人々の中で、たったひとつ共通していることが「作品が好き」という気持ちなんです

応援上映は、同じものはふたつとしてありません。その場に立ち会った一期一会のファンたちと作り上げる空間は、二度と出会えるものではないのです。

だからこそ、リピートしたくなるんです。「作品が好き」という同じ気持ちを持った人たちの中で、大きな声で自分の気持ちを叫びたい。そして周りの人の気持ちを聞きたい。その心地よさは、体感した人にしか分かり得ません。

上映終了後に自然と湧きあがった拍手が、上映会場に溢れる愛を体現しているように感じました。

マーケティングの観点からみた「応援上映に人はなぜ行くのか」

好きなものは、何度だって見たくなるものです

今回なぜ筆者が応援上映に行ったのか、それはこの原稿を書くためではありませんでした。

テレビで放送されていたアニメ「さらざんまい」を視聴者として見て、すっかりファンになり、録画を何度も見返し、Blu-rayを買い、それでも映画館の大画面でさらざんまいが見たいとチケットを自腹で購入したのです。しかも、実は2回行っています。

5時間の映画を2回ですよ。自分でもちょっとどうかと思います。しかし、なぜそのような行動をとるかというと、ひとえに「さらざんまいが好きだから」なんです。

マーケティングの観点から「なぜお客さんは応援上映に行くのか」を自分に置き換えて考えてみても、ただ「好きだから行く」以外の答えはありませんでした。

その作品が「好きだから」応援上映に行き、「好きだから」その作品のファンたちと空間を共にすることに喜びを覚え、「好きだから」2度3度と映画館に通おうと思うのです

消費者にとってそれは、十分な購買の理由になるのです。

出典:さらざんまい 公式ホームページ

映画館の“客離れ”と応援上映。コアマーケティングの成功例とは

コアマーケティングで業界に新たな価値を見出そう

このようなコアファンに向けた局所的マーケティング戦略が、今後の映画館業界における差別化につながると考えます

近年、インターネット映像配信会社の台頭やチケットの高騰化により、客離れが深刻化しつつある映画館業界。今までの価値観で、作品を上映するだけの営業形態では、更なる成長は見込めません。

そこで、さまざまなエンターテインメント性を付加した上映回が検討・実施され、「応援上映」はその成功例のひとつだと言えるのではないでしょうか。

ニッチな市場に目を向けて、コアファンのニーズにあったサービスを提供し、リピーターを増やし、客層を広げていく。このようなコアマーケティングは、映画館業界だけでなく、“客離れ”を起こしている業界が共通して着目すべき手法なのではと考えます

つまり、ファンがいるからこそ応援上映は実施され、ファンが求める限り応援上映の市場は拡大を続けるのです。

【まとめ】あらゆる形で“つながる”映画の枠を超えた新コンテンツ

応援上映の後、TwitterなどのSNSで、「応援上映を見た」との発信を複数見つけました。応援上映の場合、それは単なる映画の感想ではなく、「同じ空間を共有した」という目印です

既存の映画コンテンツにはない“空間の共有”が、同じ応援上映を見た人たちに仲間意識を与え、SNSのフォローといったように、“その後のつながり”に発展するなど、映画の枠を超えた新しい楽しみ方が生まれています

応援上映は、多様です。ひな形はあれど、そのとき参加している人々によって違いがあり、ひとつとして同じ応援上映はありません。あなたもあなたの好きな作品に出会って、もし応援上映が行われていたら、「好き」を叫びに行ってみてはいかがでしょう。

<こちらの記事もご覧ください!>

この記事を書いたライター
西繭香

西繭香

1992年生まれ。20歳の時に現在のパートナーと出会うまで、自分をマジョリティだと思っていたセクシャルマイノリティ(あと腐女子)。 「どんな人にも優しい記事」を目標に、多角的な物事を等身大の視点から分かりやすく執筆している。人の話を聞く事と、ディズニーシーと猫が好き。 Twitter: @Nishi_mayuka

関連記事
おすすめ記事
人気ライター
TOPへ戻る