この記事を書いたライター

伊藤祐介

伊藤祐介

「世の中に届ける情報は自分の目と耳で確かめたものだけ』をモットーに、取材と撮影をベースにした執筆を続けています。サラリーマン経験が長く、ビジネス系のコンテンツ制作が主戦場。それでも最近はグルメ本の制作、動画制作など幅を広げています。

2019年3月19日

『人生100年時代の社会人基礎力とは?』キーマンへの直接インタービューと、大学生のリアルな取り組みを通して、その全貌にせまる!

2019年2月19日、大学4年生は就職に3年生は就職活動に備える頃、東京都文京区にある拓殖大学文京キャンパスでは、「人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ全国決勝大会」が盛大に行われた。
今回は大会レポートを通じて、経済産業省が新しい働き方の指針として掲げる「人生100年時代の社会人基礎力」というキーワードについて理解を深めたい。

人生100年時代の社会人基礎力育成グランプリ全国決勝大会の様子

社会人基礎力育成グランプリ全国決勝大会の概要

まずは、大会について説明しよう。

主催は一般社団法人社会人基礎力協議会で、経済産業省が共催に名を連ねている。そもそも何を競う大会なのかというと、学生たちが「人生100年時代の社会人基礎力」の成長や知識の深まり度合いを競う大会だ。

ところで、「社会人基礎力」とは何か。

社会人基礎力とは、2006年に経済産業省が発表し、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」と定義されている。なぜ経済産業省がこのような基礎力を発表することになったかというと、産業界が学生に求める人材像と現実との間に乖離があったからだ。ギャップを埋めるため、語学力でもなく技術力でもなく、社会人として活躍するための基礎力の向上を学生に求めたのだ。

社会人基礎力の3要素

社会人基礎力は3つの要素で成り立っている。

社会人基礎力3つの能力と12の能力要素

前に踏み出す力(アクション)とは、目標達成に向けて当事者意識をもて積極的に行動すること。考え抜く力(シンキング)とは、現状をよく観て、やるべきことを明確にして計画的に取り込むこと。チームで働く力(チームワーク)とは、伝える、聴く、状況をみて柔軟に対応、チームワークを大切にすること。以上の3要素が社会人基礎力の源泉だと考えられている。

この3つの要素を磨くため、各大学の生徒たちは様々な取り組みを行っている。大会の目的は、各大学の生徒たちに自らの取り組みを発表させ、最も優れた取り組みを表彰することにある。全国6ヵ所で開催された地区予選大会で最優秀賞に選ばれた8つのチームがこの日の決勝大会に進出。産官学の有識者を審査員に迎え、社会人基礎力の3要素をしっかり磨くことに成功したNo1のチームを決めるのだ。

100年時代の社会人基礎力

今回の大会に私が注目したのには理由がある。2018年4月に発足した一般社団法人社会人基礎力協議会は、同時に「社会人基礎力」を「人生100年時代の社会人基礎力」と言い換えた。これは、社会人基礎力の対象が学生から社会人全般に広がったことを意味した。経済産業省が支援していることを鑑みると、「人生100年時代の社会人基礎力」というキーワードの認知が広がり、キャリア形成や人材育成の現場に大きな影響を与えるかもしれない。

そこで、いち早くトレンドをつかむためにも大会を取材することにした。幸い、有識者の方々にインタビューすることもできた。

まずは、社会人基礎力の普及に取り組む「一般社団法人社会人基礎力協議会」で代表理事を務める村山氏に貴重なお時間をいただき、「100年時代」という冠を掲げた理由についてお話をお伺いした。

特別インタビュー①

一般社団法人社会人基礎力協議会 代表理事村山氏

――― これまで学生が対象だった取り組みは、「100年時代」を掲げることで社会人も対象に入るようになったと思います。そこに込められた思いをお聞かせください。

3つの要素で成り立つ「社会人基礎力」の概念は何も変わっていません。おそらく多くの方は「基礎力」と聞いてベーシックな力のことだと思われるでしょう。しかし、私どもが提唱している基礎力とはエッセンシャルな力のことなのです。職場だけではなく、家庭や地域社会とのかかわりの中など、社会人基礎力はあらゆる場面で必要とされます。今回、「社会人基礎力」についてじっくり考えなおしてみた結果、学生だけでなく社会人にも広く知ってもらうことが今の時代に合っていると考えました。

――― 社会人基礎力を磨くため、学生には今回の様な大会が用意されています。社会人になった方々が社会人基礎力を磨こうとしたとき、どのような手段が用意されているのでしょうか。

そこは大切です。私どもはリフレクション(振り返り)することを提唱しています。ではどのようにリフレクションするのか。いつでも自分の社会人基礎力を測定できるアプリの開発を予定しています。また、企業の方々と一緒になって研修プログラムの開発にも取り組み始めています。

――― 資格制度のようなことをお考えですか。

現時点では考えておりません。社会で有効になるような仕掛けを作り続け、産業界のニーズにしっかり応えていきたいと思っています。

――― 産業界の反応に手応えを実感していますか。

注目度は高まっていると実感しています。例えば、ワークショップを開催した後にアンケートをとると、かなり高い評価をいただけます。今後の課題は、もっと「社会人基礎力」という言葉の認知度を高めること。知ってもらえれば多くの賛同が得られるはずです。

――― 最後に今後のビジョンをお聞かせください。

私どもは「人生100年時代の社会人基礎力」を社会の共通言語にしたいと考えています。そうすると、老若男女問わず誰もが定期的に自分の社会人基礎力を測定し、自分の状況を掴んだうえでそれを強化していくようになる。その取り組みを企業は積極的に支援してくれるでしょう。中小企業が人材採用する時に「社会人基礎力のこの部分に長けた人材が欲しい」と具体的に語れるくらい、誰もが知っている言葉にしたいと思っています。

グランプリに輝いたのは……

決勝大会レポート

会場は大勢の観覧希望者で埋め尽くされた。各大学の発表時間は18分と決められている。発表時間になると、壇上に立つのは指導教員と学生。まず教員が概要を説明し、それから学生の発表が行われる。

各チームともプレゼン資料を準備し、それが大型スクリーンに映し出される。資料の出来栄えは重要な審査ポイントに含まれないようだが、分かりやすい資料は一目瞭然。相手の理解を深めるには論理的な展開が重要だ。

発表スタイルには各チームの個性が現れる。いずれにしても、学生からは緊張している様子は見られず、それぞれの取り組みを通じて自信を深めてきたことが伺える。この舞台に立った学生は全員が社会人基礎力を十分に身につけているのだと感じた。

学生の発表が終わると審査員から鋭い質問が飛ぶ。「活動を通じて社会人基礎力を磨くことができたのか?」、「本当は大人に手伝ってもらったのではないか?」といった様々な疑念を学生は払拭しなければいけない。学生たちはしっかり応えていた。

優勝校の発表テーマ

いよいよ優勝チームが発表された。名前が呼ばれたのは、「文通による不登校支援 Let’sアナログマジック」をテーマに発表した創価女子短期大学だ。女子学生3名と教員1名のチーム。全員そろって壇上に上がり、笑顔で表彰状を受け取った後、会場からは万雷の拍手が送られた。

せっかくなので、創価女子短期大学の発表内容を簡単に紹介しよう。

テーマからも分かるとおり、社会課題の1つである「不登校」を支援するための取り組みについて、彼女たちならではのアイデアを発表した。そのアイデアとは文通だ。具体的には、不登校の子どもたちと大学生が文通を行うことで、子どもたちは人との繋がりを通じて勇気を与えられ、大学生は社会課題への理解を深めることができるというものだ。とても素晴らしいアイデアである。

彼女たちは、このアイデアを練り上げる過程で様々な経験をした。例えば、当初は「1dayスクール」の開催を目指したが挫折。さらに、不登校の子どもたちにアプローチしようとしても接点が見つからない。そんな中、小学校や中学校に協力をお願いすることに。学校を経由することで個人情報を守りながら、不登校の子どもたちと接点を持つことができると考え、「文通」というアイデアにたどり着いたそうだ。

前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力の3要素が十分に磨かれたことが伝わる、素晴らしい発表だった。

各チームの発表テーマ

他にも個性的な取り組みが発表された。簡単に紹介する。

●近畿大学経営学部

学生はサントリーと手を組み、「若者の自動販売機離れ」についての学内アンケート調査を実施。そこから見えてきた実態を基に、学生たちがサントリーへ新たな飲料自販機に関連した事業提案を行った。企業との関わり合いの中で学生たちは多くのことを学んだようだ。

●帝塚山大学 現代生活学部食物栄養学科

すでに運営している学生レストランの認知を広げるため、地元の歴史を学び、「てんちゅうグミ」というお菓子を開発。商品化までに様々な企業へ協力のお願いに回るなど、学生たちの積極的な姿勢が見られた。

●千葉商科大学 人間社会学部人間社会学科

地元の祭り「真間あんどん祭り」の運営に携わる学生たちが、協賛店獲得に奔走する様子や、お祭りの目玉である「行灯のライトアップ」を多くの人に楽しんでもらうための工夫を発表。目の不自由な人にもライトアップを楽しんでもらうための工夫はとても心温まる話だった。

●福島学院大学短期大学部 情報ビジネス学科

地元のローカル鉄道「阿武隈急行線」の30周年記念事業を成功させるために学生たちが行ったことは、クラウドファンディングで「はちみつビール」を返礼とした資金集めをすること。大人たちの支援も受けつつ、最終的には目標を上回る287万円を集めたそうだ。

●福岡大学 経済学部産業経済学科

学生たちにとって大きな関心事の一つ「就活」をテーマに掲げ、1つのビジネスモデルを完成させるまでの活動を発表した。学生が注目した社会課題は、入社して3年以内に離職する人が多いこと。そこで、インターンを経験した学生がその会社の就職説明会を開催するという新しい発想を取り入れ、企業から評価されるビジネスモデルを完成させた。実践的で面白い内容だった。

●松山大学 経済学部経済学科

学生たちは、地域ファンドを活用して資産形成と地域活性化を実現するプロジェクトに取り組んだ。地元の銀行や役所に働きかけ、学生たちが様々な壁を乗り越えるなかでチームワークや主体性を学んでいく様子が伺えた。

●名古屋経済大学 法学部法学科

沖縄県出身の学生たちが地域活性化を目的に屋台をオープン。沖縄だけを主張するのではなく、地元の犬山市についての理解も深め、従業員には沖縄県出身者だけではなく地元の人たちにも参加を仰ぎ、幅広い人たちの協力を得ることに成功。沖縄そばや琉球泡盛などを提供し、大学の学生や先生、市役所の人たちが訪れる場所にまで成長したそうだ。

最後は記念撮影が行われ、大会は無事に終了した。この興奮は来年の大会を目指す後輩たちへ引き継がれる。

最後に、大会の共催に名を連ねた経済産業省を代表して経済産業省産業人材政策室室長を務める能村氏に貴重なお時間をいただき、「100年時代の社会人基礎力」の可能性についてお話をお伺いした。

特別インタビュー②

経済産業省産業人材政策室室長 能村氏

――― 社会人基礎力は、2006年に経済産業省が作った言葉です。その背景を簡単にご説明ください。

能村 当時は「ニート」という言葉が使われ始めた頃です。若者の価値観が変化するなか、教育の現場から社会へ巣立つ学生の『あるべき姿』と『現実』にギャップがありました。その対策は、学校や企業、地域社会の皆で考えることになるのですが、バラバラで考えるのではなく、共通言語を基に議論することが大切です。そこで考え出されたのが「社会人基礎力」という共通言語です。

その後、「少子高齢化」という言葉が聞かれるようになりました。リンダ・グラットンが唱える「100年時代」が示す通り、リタイアしてからの老後は長い。つまり、長いキャリアを真剣に考える必要性が高まってきたわけです。そこで私どもは「社会人基礎力」を再度見直し、2018年に「100年時代の社会人基礎力」と名前を変え、さらなる普及活動に一歩を踏み出しました。

――― 「100年時代」を掲げる上で、新たに加えた重要な概念は何ですか。

大きな概念は変わっていないのですが、リフレクションの概念を加えることで、非連続的で複雑性の増したキャリアプランに対応するべく、自身の能力を常に見直し、時代の変化に対応できるフレキシブルな人材の育成を強く意識したものになっています。

――― 働き方改革にもつながりそうですね。

能村 まさにその通りです。私どもは「トランスファラブルスキル」とも呼んでいるのですが、組織と組織の間を持ち運べる能力が「社会人基礎力」だと思います。分かりやすくいうと、専門性やリーダーシップなどの尖った能力は、ある組織では通用しても、他の会社にいくと役立たないこともあります。ところが、持ち運び可能な社会人基礎力を磨いておくと、移った先の組織でも役立つのです。

――― 最後に、今日の大会についてご感想をお聞かせください。

学生たちの発表を聴いてますと、各取り組みできちんとPDCAのサイクルが回っていることが伝わってきて、とても感心しました。もっと多くの学生たちにも、主体的に行動する経験を積んでもらいたいと思います。幸い、大会の知名度も定着しつつありますので、次回、その次と大会がますます成長することを期待しています。

まとめ

社会人基礎力というキーワードについて知ったのは2週間ほど前。ジョイキャリアの編集部から「大会を取材してみませんか?」と声をかけてもらったのがきっかけだった。当初は、クラウドや人工知能のようなバズワードの類かと思ってもいた。しかし、学生たちの取り組みを見ることで、裾野の広さを実感することができた。また、周りにいる大人たちの真摯な取り組みに触れることもできた。人材採用の現場で「人生100年時代の社会人基礎力」が共通言語になる日は近いかもしれない。

最後に、『適職診断オンライン』という社会人基礎力を測定できる診断サイトをご紹介する。ジョイキャリアを運営するJOI Inc.では、社会人基礎力の仕組みを応用して、適職診断オンラインという診断サイトを開発し、社会人基礎力をスコアにした。さらにそのスコアを元に適職を判定することができるのだ。

試しに私も適職診断に挑戦してみた。30質問の質問に答えると、1000万通りの組み合わせの中から適切なものを提示してくれる。その結果、適職は銀行員や証券マンだと示された。確かに堅い仕事も向いてそうだ。もう少し若ければ違う道を歩んだかもしれない。

この記事をご覧いただき、自分の社会人基礎力がいかほどか知りたくなった方は試してみてはいかがだろうか。

筆者の診断結果

適職診断オンライン

【取材協力】
一般社団法人社会人基礎力協議会

この記事を書いたライター
伊藤祐介

伊藤祐介

「世の中に届ける情報は自分の目と耳で確かめたものだけ』をモットーに、取材と撮影をベースにした執筆を続けています。サラリーマン経験が長く、ビジネス系のコンテンツ制作が主戦場。それでも最近はグルメ本の制作、動画制作など幅を広げています。

関連記事
おすすめ記事
人気ライター
TOPへ戻る