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ヒゲピカ

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長年のライター経験から裏打ちされた洞察力、ロックDJとしての審美眼を兼ねたお髭のマツオカと、元お笑い芸人ゆえの独創的な発想力を活かした切り口のインタビュー&ライティングに長けるハヤシモトケイスケによるユニット。この出鱈目な世の中で、真実に向かい吠える二匹の狼。

2018年11月28日
スペシャリストたちの7つ道具

レザー職人 柳井康正(SELL OUT)/スペシャリストたちの7つ道具 vol.6

“革を育てる”という表現があるほど、使い込むほど手になじんでいき、オリジナルな風合いが増す革製品。現在、複数の有名ブランドや企業からの受注をメインとしつつ、財布、カバン、ジャケットといったアイテムのオリジナルブランド「セルアウト」の制作も行っているレザー職人の柳井康正氏。革の匂いに包まれている柳井氏の工房にお邪魔すると、そこは武骨な工業用ミシンと見たこともない道具の数々が並ぶ、まさに“職人の作業場”といえる雰囲気であった。一途に革と向き合い続ける柳井氏に、レザー職人という仕事と、必須ともいえる“7つ道具”に関してお話を伺った。

ファッションに対する強い思いと、革との出合い

服飾の道を志した柳井氏のルーツを辿っていく

幼少期の頃から、ほかの子どもと比べてファッションに対しての興味が深かったという柳井氏。

「幼稚園の時、オーバーオールがお気に入りでよく着ていたんですが、ある日、母が汚くなってきたからということで勝手に捨てちゃったんです。それに僕が烈火のごとく怒りまして。『今まで、息子がそんな怒り方をしたことない』と母も非常に驚いたみたいです。その頃から自分の着る物、つまりファッションに関して興味や関心が強い子どもだったんだと思います。

小学校に上がっても、ませた子どもだったと思います。僕のまわりにもファッションが好きな連中が集まっていたというのもあって、リーやリーバイスのジーンズ、アディダス、ナイキなどのスポーツブランドを好んで着ていました。

そして高校の時、ガンズ&ローゼスやモトリー・クルーなど、音楽の影響で初めて革ジャンを買ったんですが、そこで完全に革という物に魅入られて。だから卒業後の進路は、大学進学を勧める親をなんとか説得して文化服装学院に進学をしました。この先、自分は何をして食っていくのかと考えた時、洋服に関わる仕事だったらずっとやっていけると思ったんです。

僕たちの年代はいわゆる“黄金時代”といわれる世代でして、たとえばファッションブランド『アンダーカバー』の高橋 盾とは同級生で、彼には大変刺激をもらいましたね」

仕事として革と接するようになって

手なれた手つきで工業用ミシンを操る

そして文化服装学院を卒業後、下北沢にある革の工房に就職した柳井氏。学校の課題も革を用いて行うほど革にのめり込んでいた為、革製品を作ることに関しては「ある程度自信を持っていた」と語る。

「もちろん、その工房でも多くのことを学びました。特に重要だったのが、制作期間、材料のコストなどを考えて値段を設定するということ。いわゆる商売という側面で、革と接したというのは、働いていて大きかったですね」

その後、退職し貯金を使い2年ほど渡米。時代は93年、アメリカではオルタナティブ・ロックが全盛のこの時代を直接肌で感じ、強い影響を受けたという。
「音楽カルチャーとファッションというのは、昔から切っても切り離せない密接な関係性があり、それは僕も例外ではなく、自分のブランドに少なからず影響を与えてくれましたね。

毎日がカルチャーショックの日々でした。柄だったり、型押しや装飾の組み合わせなんかも勉強になった。革を使うということは変わらないんですが、作風はずいぶん変わりました。あと、シルバーアクセサリーブランド『クロムハーツ』がまさに出始めの頃で、現地で仲良くさせてもらっていたのですがこれにも影響を受けました。

そういえば、先日『BEAMS』で個展をやらせてもらった時、偶然その時のメンバーが来日していて久しぶりに再会したんですよ。彼らも懐かしがってくれて『今度、ロスに来いよ』と声をかけてもらいました。また彼らと何か一緒に出来れば面白いかもしれませんね」

職人としてのこだわり

天井まで敷き詰められた生地やパターン、資料の山

現在も人気ブランド「マウンテンリサーチ」、「ベッドフォード」、「レイブニック」、「ピール&リフト」、「ディガウェル」などや、CM、映画などで俳優やタレントが着用するレザーアイテムまでも手掛けている。

「よく素材を相談されることはありますね。だから『こういう革の方が良い仕上がりになりますよ』とか『こっちの問屋よりこっちの問屋の方が革がいいですよ』みたいなアドバイスやディスカッションは必ず行います。職人としての目利きのような物だけでもお金を発生させたいくらいですよ(笑)。

それにいい革であれば、こちらもモチベーションが上がりますし。実際に作っていて、酷い素材に途中で嫌になることだけは避けたいので、最善の革をお伝えしています。それは納品のクオリティにも関わる大事なことですからね。

そして仕事は『丁寧、手を抜かない』は当たり前で、それを意識しているうちは、まだまだ。革の裁断から始まり、ひとつ一つの工程で、自分がベストと思える仕事をやっていくというのが大事だと思います。それをクライアントやお客さんに評価をしていただけたら嬉しいですしね。いい仕事というのは、自分が正しいと思ったことをしっかり積み上げていく作業だと考えています」

工業用ミシン「Brother製 DB2-B797」

工業用ミシンらしく飾り気のないフォルム

レザー職人の歴史は古く、今でも「手縫い」にこだわる職人も多くいるというが、今回、柳井氏が7つ道具として、まず挙げたのが革を縫う為の工業用ミシン「Brother製 DB2-B797」だ。

「もちろん必要なところは手縫いもしますが、僕はミシンを駆使して複雑な物を作っていきたいんです。このミシンは20年以上前に知り合いから譲り受けた物で、メーカーでもすでに廃盤になっていると思う。革用のミシンだから、針が太くパワーもあるんです。ジャケットなど大きな革を縫う時は、このミシンがメインになってきます。

古いミシンなんですが、僕の利用しているミシン屋さんでは今でもパーツを管理してくれているので交換も出来るし、何より工業用ミシンはタフに作られているので、なかなか壊れないんですよ」

工業用ミシン「JUKI製 上下送り腕ミシンDSU-144N」

回転させながら革を縫っていく腕ミシン

「これはカバンなどの曲線を縫う時に使うミシンです。工業用ミシンの世界ってモデルチェンジがほとんどないんです。この品番自体は2、30年一緒だと思います。腕ミシンって、このJUKI製がいいとされていて、僕も実際に縫ってみたらほかの製品との違いにびっくりしました。

そんなに違いはないと思っていたんですが、踏み比べてみると違う。踏んだ時のフィーリングでミシンの良し悪しってなんとなく分かるから、足から伝わる感覚っていうのかな?
それが凄くいいミシンです」

西山製作所 革漉(かわす)き機

一見すると何に使うか見当もつかないフォルムだ

「分厚い革を薄くしたり、調整する時に使うのが革漉き機。下手したら4、50年前から形が変わっていないという特殊な機械です。西山製作所という会社は、今ではもう無くなってしまっていて新品ではもう手に入らない。革漉き機自体は、今もニッピという会社が作り続けているんですが、なぜか『西山製作所の物がいい』とされていて古い物のほうが人気が高い。まるで旧車みたいな一品です。

革製品を作る時って、アイテムの種類や仕上がりを考えて、薄さを調整するんですよ。たとえば『財布だと薄く』のように。だから過去の経験と残しているメモから情報を掴み、体の感覚で薄さの数字を割りだして漉く作業をしています」

オリジナルの虎の巻

過去の自分の足跡が何よりも貴重な資料となる

「服飾としての『縫い方のセオリー』みたいなのは当然あるんですが、そこから先のオリジナリティを考えた時のデザインや、いかに綺麗にそして効率的に縫う方法などの、自分が身をもって経験したことを書き留めているノートです。今でも少しずつですが増えています。

何かを作る時にこれに目を通し、以前の自分の作業を確認すると、そのときのテンションとかも分かるし面白い。こればかりは、どこ行っても売ってないから貴重な物ですね。自分自身の革職人としての歴史といっても過言ではないかもしれません」

手の感覚と一体化させて使う道具たち

どれも年季が入った道具が並ぶ

技術とセンスが重要なレザー職人。柳井氏の手と一体化し、はじめて真価を発揮する道具も多い。

「『金床(かなとこ)と刻印』は、革に模様を付けるときの必須道具。金床の上に革を敷き、上から刻印で叩くと綺麗に模様が押されます。金床のほうは、バーベルの重りを代用して使っています。若干、お値段が張る道具だから兄が使っていたバーベルから拝借して使っています(笑)。

刻印は既製品のデザインも多くありますが、どうしてもないデザインはオーダーで注文して作ってもらう。大きい工場とかになると大きな刻印で一気にやるのですが、僕はひとつ一つ手作業で打っていきます。

パターンを引く際、曲線を描く時に必須なのが『パターン定規』。これって小さく刻みながらチマチマやると、迷いが生じてあまり上手に引くことが出来ないんです。スッスッスッと3回くらいで引いた方がいい線が引けます。

この『立体裁断用はさみ』は、実は学生の頃に買った物です。30年近く経った今でも、なんとなく使い続けていますね。マネキンのボディに布を着せてそのまま切る用だから、普通のはさみより材質がステンレスで軽く作られています。ちなみに鞘は自分で10分くらいでパパッと作りました。これだけ長く持っているのだから、気付かないだけで愛着も湧いているかもしれません」

さまざまなミシンや道具を使い、自身の作品ともいえる革製品を制作している柳井に改めてレザー職人として、仕事を楽しむ為の秘訣をお伺いすると、実に職人らしい答えが返ってきた。

「やっぱり『好きこそ物の上手なれ』だと思います。僕も、生地が革じゃなかったら全然だめだったと思うんです。普通の布地とかになるとまったく実力を発揮出来ないタイプ。やる気もなかなか湧かないし。でも、好きなことなら前のめりで取り組んで、必要な勉強もしようとする。仕事というのは、何か楽しさや興味を見つけるといいと感じます。実力持ちながらも嫌々やってる人と、下手だけど好きでたまらないって人…最終的に上にいけるのは絶対後者です」

レザー職人の仕事について詳しく知るには職業ナビ!
 ▶︎「レザー職人」を詳しく見る

【取材後記】

財布やジャケットなど、誰でもひとつは持っている革製品。生地が動物の革だから“世界に同じ物が絶対にない”というのが大きな魅力だと改めて思いました。しかし、だからこそ製品を作りあげるには卓越した職人の技と、それを活かす専用の道具が必要なのだと感じました。

今回、工業用ミシンというのを始めて見たのですが、その武骨なフォルムとモーター音などが、まるでレトロなクラシックカーのような雰囲気を醸していたのが印象的でした。

【柳井康正さんの紹介】

柳井康正/レザー職人

神奈川県出身。1969年生まれ。高校卒業後、文化服装学院へ。革の工房に就職後、93年に渡米。ここでの刺激が、後の作風に大きな影響を及ぼす。帰国後、自身のブランド「インサイドアウト」(後にセルアウトに改名)を設立。現在は自宅を改装した縫製工場にて、人気ブランドのレザーのラインナップを多く手掛ける一方、CMや映画のレザーの衣装の制作も行うなど、レザー職人としての信頼は非常に厚い。

柳井康正さんのリンク集

・柳井康正さんInstagram
https://www.instagram.com/sellout_yanai/

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