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ヒゲピカ

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長年のライター経験から裏打ちされた洞察力、ロックDJとしての審美眼を兼ねたお髭のマツオカと、元お笑い芸人ゆえの独創的な発想力を活かした切り口のインタビュー&ライティングに長けるハヤシモトケイスケによるユニット。この出鱈目な世の中で、真実に向かい吠える二匹の狼。

2019年2月7日
日本の社窓から

ハム・ソーセージ職人 矢島二郎・路子・慎介(ハム工房ジロー)/日本の社窓からVol.4

伝統的なドイツ製法を守り、頑なにこだわり続けるハム・ソーセージ店が神奈川県茅ヶ崎市にある。先代が大正14年、ドイツ人ソーセージ職人のカール・ブッチングハウス氏よりハム製造のノウハウを伝授。その製法を受け継ぎ、後世に残すべく平成15年、2代目が「ハム工房ジロー」として独立。日本はおろか、ドイツでも失われつつある製法で、現在もハムやソーセージを造り続ける2代目の矢島二郎氏と経理全般を担当する路子氏ご夫婦、そして、製造を託されたご子息の慎介氏に話を伺った。

伝統が受け継がれて行く工房

「食」に関して貪欲で破天荒だった初代

ルーツを辿ると100年以上前まで遡る

時代は第一次世界大戦にまで時は遡る。日英同盟に基づき参戦した日本軍により中国・青島のドイツ軍要塞は陥落し、大量のドイツ兵が捕虜として日本の収容所へ収監されることになった。

捕虜のなかには様々な職人や技師もおり、そこで洋菓子やパンなどのドイツ文化が初めて日本にもたらされることになった。ハム・ソーセージといった食肉加工技術もそのひとつ。戦後、ドイツに帰ることなく、日本でソーセージ工場を営んでいたカール・ブッチングハウス氏と、初代である矢島八郎氏(矢島二郎氏の実父)の出会いこそが『ハム工房ジロー』のルーツになったということだ。まだ、日本に肉食文化が浸透していない頃の話である。

「当時、横浜で精肉店を営んでいた父は、好奇心旺盛で破天荒な人でした。戦闘機に乗って上空から店のチラシを撒いたり…という話も聞いています。ハム・ソーセージなんて日本では一般的ではない時代、食に対する探究心が人一倍強かった父は、取引先であったカール・ブッチングハウス氏の食肉加工技術に大きな衝撃を受けたそうです。

しかし、そこは“職人気質の世界”。当然、すぐには教えてくれなかったそうで…そこで父は“盗み見”するが如く、見よう見まねでなんとか美味しいソーセージを造ろうと試行錯誤を繰り返したそうです。そして、その努力が実り、直接アドバイスをもらえるようになり、ドイツ製法のハム・ソーセージを造りはじめたのです」(2代目)

知らずに守り続けていた“伝統の製法”

伝統をいかに守っていくか

初代の必死の努力により、ついにはカール・ブッチングハウス氏より伝授されたというドイツ製法。簡単に説明すると、長時間自然漬込み(大手ハム店では熟成期間を短縮させるために注入器により肉に直接塩漬液を注入する)や、直下式スモークによる燻煙処理を行うということだそう。それを現在も頑なに守り続けている2代目だが、最初から“伝統的な製法”で造っているという意識はなかったという。

「私が独立して『ハム工房ジロー』を創業した時に偶然、老舗の得意先の方が『あなた方の製法の歴史はすごいですよ。一度調べたほうがいい!』といわれまして…確かに父の技術はすごいとは思っていましたが、受け継いだ製法で、当たり前のように造っていたので、特別なことをやっているという意識はなかったんです」(2代目)

「私も嫁いできた当初、先ほど話に出た義父のドイツ人職人との出会いや、その技術を盗み見して…といった話は聞かされていましたが、正直、話半分で聞いていたんです。そんな伝統のあるハム店だと思っていなかったですし、製法に関しても『どこのハム店もこうやってハムは造るもの』と思ってやっていたことだから、知ったときはビックリしましたね」(路子氏)

「結果的に私が独立し、昔ながらの製造を続けていたため、ドイツでもすでに行っていない伝統的な技術が失われずに済んだということなんです」(2代目)

息子・慎介氏はドイツへ行った際、驚愕したという。すでに本場ドイツでもこの製法ではハムやソーセージを造っていないということを知ったからだ。

「ドイツでも、すでに食肉が完全にビジネスとなっており『いかに安く大量に造り、儲けるか』が重要視されていました。たしかにデンプンや増量剤で肉の量を増やし、添加物を大量に入れて効率よく造るほうが、商売として考えたら正解なのかもしれない。

しかし、この貴重となってしまった製法を私たちは後世に伝えていかなければならないという使命感が湧きました」(慎介氏)

だが、必ずしも「添加物や増量剤が悪い」ということではないと慎介氏は続ける。

「これほど米文化の日本でハム・ソーセージが広まったというのは、大手が安価では商品を提供し続けてきたという功績はやはり大きい。また、今まで鮮度の問題で食べられなかった地方に住まれているような人も、保存料のおかげで手軽に口にできるようになりましたし…。現在、日本の食卓に当たり前のようにハム・ソーセージが並ぶようになったことは、やはり感謝しなければいけないことですね」(慎介氏)

「ハム工房ジロー」が造る味とは

くん製の香ばしい薫りが漂う店内

一貫して保存料・増量剤・化学調味料を使わず、手間のかかるドイツ式伝統製法を守りハム造りをおこなう『ハム工房ジロー』。その伝統の味とは?

「ドイツの品評会にハムを出品したことがあるんですが、ですが金賞は取れなかった。それは、見た目も重視されてしまうコンテストだからです。本来、ハムというのは手で折ると割れ目が入らなければいけない。それが、つなぎを使っていない証拠。しかしほかの商品は見た目の美しさも重視した結果、いらないつなぎをたくさん使って造っているんですよ」(2代目)

「以前、うちの商品の食品表示ラベルを見たお客さんに『ハムってこれだけでできるんですか!?』と聞かれたことがあるんです。もっと色々と添加物を入れないと造れないと思っていたみたいで…。表示は肉・塩・砂糖の3つだけ。塩漬けして熟成させボイルする。本来、それだけでハムってできるんですよ」(路子氏)

「50年前、100年前のドイツに食品添加物なんて絶対に存在しません。だからそれらがなくてもハムは造れるんです。そして、昨今はアトピーやアレルギーなど、食品添加物に敏感なお子さんが増えていると聞きます。

そんなとき、うちのハムのような素材だけを使って造った食品というのが重要になってくると感じています。そういった方々に、特に食べてもらいたいですね」(慎介氏)

素材だけで造られたハム

伝統を守りながら進んでいく

製法・技術は親子で受け継がれていく

現在、店は2代目を中心として次男の慎介氏が製造を、長男が営業を担当しているというが、やはり創業当時は苦労が多かったという。

「いくらすごい製法を行っているといっても、うちなんて知名度もありませんし、大手に比べて価格も高い。少しでも多くのお客様の目に触れ、口に届くよう、ドイツ車ディーラーの催事に営業をかけ、そこで無料でふるまったりもしました。

今では百貨店の催事も精力的に参加するようになり『茅ヶ崎にこんな伝統的な製法で今も造り続けているハム店がある』ということをみなさんに少しずつ知ってもらえてきています」(2代目)

「私は大手ハムメーカーでの勤務経験もあり、そこで衛生管理など重要なことをたくさん学んできました。弟の私が造った商品を兄が売るという二人三脚でこれからも歩んでいきたいと思っています」(慎介氏)

製造と営業。バランスよく、息子ふたりが2代目をバックアップしている現在の『ハム工房ジロー』。今後について「昔の伝統を守り続けるのも大切ですが、人の味覚というのは時代によって変化していくもの」と語る2代目。

「化学調味料を使うと、さっと簡単になんでも美味しくできてしまいます。ですが“肉本来のアミノ酸の旨味”というのを皆さんにもっと知ってもらいたい。豚モモ肉だけでも4つの筋肉があり、当然すべて味は違います。

そして、商品開発など新しいこともどんどんチャレンジしていきたい。そして、私たちのような国産の豚肉を使うハム工房が頑張ることで、国産の食肉の付加価値を高め、日本の畜産業も元気にしていければいいですね」(2代目)

最後に仕事を楽しむ秘訣を2代目と慎介氏に訊いてみた。

「今の時代、教える側の人間が1から10まで何でもすぐに教えてしまう。そうすると効率よく学ぶことはできるのでしょうが、その仕事の“ハート”の部分を置き忘れたまま一人前になってしまう。それだと自分の仕事の誇りや楽しさに気付けないんじゃないでしょうか。だからすぐに辞めてしまう人が多いのかもしれません」(2代目)

「私は『○○したら××になるんじゃないか?』とワクワクすることが重要だと思います。実際にできたものが自分の理想と近いのか、それとも遠いのか、という結果を楽しみに、常に理想をもって試行錯誤していく楽しさに気づけたら、仕事って面白く感じるんだと思います」(慎介氏)

ハム・ソーセージ職人の仕事について詳しく知るには職業ナビ!
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取材後記

普段食べている食品も、様々な歴史や伝統の製法が用いられ造られているということを実感しました。ですが、安く大量に食べられるようにと、食品添加物がたくさん使われているという怖さも知り、少しでも体に良い食品を選択して食べていきたいと感じました。

そう思わせるほど、取材中に頂いた「ハム工房ジロー」のハムやソーセージ、ベーコンなどの商品は肉本来の旨味と、くん製の香りが口いっぱいに広がり素晴らしい味でした。また、実は慎介氏は、私の昔からの幼馴染。毎日、一緒に小学校へ通っていた彼が、伝統を受け継ぐ担い手として日々働いていることを今回の取材で知ることができ、大変刺激を受けました。

インフォメーション

ハム工房ジロー
〒253-0002
神奈川県茅ヶ崎市高田5-2-26(茅ヶ崎青果市場内)
TEL:0467-54-8604
営業時間:9:00~18:00
定休日:日曜(8月、12月は不定休)
HP:http://www.ham-jiro.jp/index.php

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