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下條信吾

下條信吾

1984年生まれ、長野県安曇野市出身、東京在住。ライター兼カメラマン稼業と並行してレゲエ・スカバンド「KaRaLi」「Tropicos」「The Kingstompers」などでも活動している。

2019年4月4日
フロンティアスピリッツ

ミニチュア写真家・見立て作家 田中達也/フロンティアスピリッツ vol.6

脱サラして飲食店を経営したり、都会暮らしをやめて地方で農業を始めたり、人生の中で「仕事を変える」という選択をする人は決して少なくない。しかし、「変える」のではなく、仕事そのものを新しく「生み出す」人はごくわずかだろう。

冒頭の写真で柔和な表情を見せる株式会社MINIATURE LIFE代表、田中達也氏の職業は「ミニチュア写真家」。おそらく世界中で彼1人だけが手にした肩書きだ。

元々デザイン会社でクリエイティブディレクターとして働いていた彼がどんなキッカケでミニチュア写真家になったのか?そして、唯一無二の職業を生きる孤高の存在として、どのように仕事と向き合っているのだろうか。鹿児島にある彼の自宅兼撮影スタジオで話を伺った。

Instagramのフォロワー190万人。職業「ミニチュア写真家」

田中氏が手がける「ミニチュア写真」とは、ミニチュアのフィギュアを被写体として、日常に溢れるさまざまなものを別の何かに“見立てて”撮影した作品。日めくりカレンダーのように毎日作品が更新されるInstagramはフォロワー190万人という驚異的な人気ぶりで、国内外のさまざまなメディアから取材を受けるなど、世界中で注目されている。

2019年1月のミニチュアカレンダー

デザイン会社でアートディレクターをしていた田中氏がInstagramを始めたのは2010年のこと。仕事の中で必要に迫られ、アカウントを開設したそうだ。

当時の記憶を語る田中達也氏

「クライアントにマーケティングの目的でSNSの活用を勧めることがあったんですけど、そのときに自分がやっていないと説得力が出ないじゃないですか。だから僕も何かSNSを始めようと思って。会社はTwitterを推奨していましたが、言葉だけで伝えるよりもビジュアルで見せる方が好きだったので、Instagramを選びました。」

最初の投稿は2010年の10月17日。ミニチュア作品ではなく田中氏が日常を切り取った写真が並ぶ

クリエイティブディレクターとして写真やアートといったビジュアル表現に精通していた彼が、義務感で始めたInstagramに楽しさを見出すまでにそれほど時間はかからなかった。しかし、一体なぜ「ミニチュア」に目をつけたのだろうか。

「Instagramでたくさんの人に興味をもってもらうためには、他の人と違うことをしなければならない。そう考えた時、昔からプラモデルやお城の模型などのマニアだったので、ミニチュアを題材に撮影しようと思いつきました。当時仕事でモデルさんを使った撮影を依頼することがあったんですけど、実はその感覚に近いです。

被写体をモデルさんからミニチュアフィギュアに変えただけ。意外とシンプルな発想です。フィギュアって小さいものでも意外と高価なので、子どものときは手が出せず、“老後の楽しみ”くらいに思っていました。ミニチュア写真家になってからは妻に後ろめたい思いをすることもなく仕事のために堂々と収集できるので、僕みたいなマニアにとっては最高です。(笑)」

今も作業デスクの後ろにはコレクションのフィギュアなどがズラリ

「ミニチュア写真」というコンセプトのもと、毎日Instagramへ作品を投稿するようになった田中氏。その作品は少しずつ注目を集め始め、国内外のメディアでも取り上げられるように。

世界最大級のネタ画像投稿サイト「9GAG」のInstagramで作品が紹介された際は、フォロワーが一気に10万人増えるなど、着実に認知を広げていった。そして、いつしか企業から商品PRなどの目的で作品制作の依頼が入るように。

本業のクリエイティブディレクターとミニチュア写真家という二足のわらじを履いた彼は、Instagramのページ開設から5年が経った2015年の9月、本業を辞め、ミニチュア写真家として独立。「株式会社MINIATURE LIFE」を立ち上げた。

ネタのストックは600。毎日アップされるミニチュアカレンダー

クリップを待合室の椅子に見立てたり、セーターの編み目模様を日本庭園に見立てたり、ソーイングセットをドラムやコントラバスに見立てたり……毎日更新されるミニチュア写真は遊び心に満ち、一枚のビジュアルからさまざまな物語を想起させる。

2018年11月18日の作品「Waiting Room

2019年3月14日の作品「Japanese Garden」

2019年3月19日の作品「Sewing Song

「作品のことは生活の中で常に考えています。例えば景色を見て『この建物〇〇に似てるな』とか、お店に陳列されている商品を見て『たくさん並んでいると〇〇みたいだな』とか。ネタが思い浮かんだらiPhoneのメモに記録しておいて、その中からどれを形にするか考えます。」

iPhoneメモには常に600ほどのネタが書き込まれている

作品は出張などで長期的に自宅を空ける時を除き、基本的には毎日1点制作してその日のうちにアップする。飽きずに楽しんでもらえるよう、季節感を意識したり、似た題材の作品が続かないようにと、細かいところまで配慮しているそうだ。

2万体以上所有しているフィギュアはジャンルごとに分けられ、田中氏の几帳面な性格が垣間見える

「作品を制作するうえでいつも大切にしているのは“伝わりやすさ”。長く続けていると、ちょっとマニアックな素材を使いたくなったり、必要以上に素材に手を加えたくなることもあります。しかし、“見立ての本質”を見失うと、見る人にストレートに伝わらず『いいね』の数も伸びません。たまに自分の昔の投稿を見返して、どんな作品が多くの人から喜ばれていたかを確認します。」

スタジオは仕事と趣味を詰め込んだ田中氏の“城”

趣味と仕事の違いは「数字への意識」と「他者への思いやり」

「ミニチュア」という幼少期からの趣味を仕事へと変換した田中氏。「好きなことで収入を得ているなんて最高ですね」と周囲から羨まられることがあっても、本人は浮き足立つことなく、冷静に自分自身の生業を見つめている。

見ていて飽きないバリエーション豊富なフィギュア達

「『ミニチュア写真家』を仕事にした瞬間から、Instagramのフォロワーの数や『いいね』の数、展覧会の来場者数や出版物の売り上げ部数など、『数』にこだわるようになりました。良い数字が出るのはそれだけ多くの人に受け入れられたということ。

自分の趣味だけを前面に押し出すなら、例えばちょっと残酷な世界観も好きだったりしますが、それによってこれまでのフォロワーが離れるリスクを考えるとやるべきではない。他にもフィギュアを提供してくださるメーカーさんやクライアントのイメージダウンにもならないように……つまりは“出来るだけ誰も不快にならないように”、細心の注意を払っています。」

競争からの解放。ミニチュアカレンダーはいつまで続く?

彼の仕事において特筆すべきは、前述の「趣味を仕事にした」ことの他にもうひとつ。それは、ミニチュア写真家という「新しい仕事を生み出した」ことだ。

前例のない、誰も歩いたことのない道を1人突き進む彼は、一体どんな思いでいるのだろう。不安感や、「同じことをやっている人がいない」という孤独感はないのだろうか。

「独立する以前の自分を振り返ると、当時は他人のことを気にしすぎていたと思います。何かの賞を受賞したり、大きな仕事をしていたり、東京で働いていたり、華やかに活躍しているデザイナーの同業者に対して、正直嫉妬していました。

しかし今では争う相手が全くいなくなり、気持ちはすごくスッキリしています。羨ましいと思って誰かの背中を追いかけている限り、その人を追い抜くことはできない。今は誰と比べられることもなく、クライアントは私の作品を理解したうえで“私にしかできない仕事”を求めて依頼してくれるので、仕事もとてもやりやすいです。」

メディアにも取り上げられ、多方面で注目される田中氏だが、気取らずフラットな雰囲気が印象に残った

誰にも縛られず、誰とも比べられることのない孤高の存在となった彼。その原点であり、ライフワークである「ミニチュアカレンダー」をスタートしてから、間もなく8年が経とうとしている。

これから先、彼は何を目指すのだろうか?ミニチュアカレンダーはいつまで続くのだろうか?最後に聞いてみた。

「今は日本やアジアで展覧会を開催していますが、今後はアメリカやヨーロッパにも進出し、もっともっとたくさんの人に作品を楽しんで欲しいです。また、パブリックアートや美術館など、見立て作品を常設で展示してもらうことも夢ですね。

ミニチュアカレンダーはとにかく長く続けることが目標。いつか息子が大きくなった時、ミニチュア写真家の”2代目”として一緒にやってくれたら素敵ですね。親子3代、100年続いたら『それ先代のネタと被ってる!』なんてこともあるのかも(笑)。」

取材後記

Instagramで自分のキャリアを切り開いた田中さん。

「インスタグラマー」と言葉にすると、華やかでカリスマ的な存在をイメージしますが、田中さんの過去の投稿を遡ると、いいねの数が100以下という作品もあります。

それでも毎日途絶えることなく作品を作り続けた結果、フォロワー190万人という今がある。

田中さんのお話から、自分を信じ続ける忍耐力と、「好き」なことに対する情熱、そして、自分を客観視する冷静さなど、成功の秘訣が垣間見えました。

田中達也さんのご紹介

ミニチュア写真家・見立て作家。日常にある物を別の物に見立てたアート「MINIATURE CALENDAR」をインターネット上で発表し続け、国内だけにとどまらず海外からも注目を集めている。

2017年NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバックや、日本橋高島屋S.Cオープニングムービーなどを担当。2019年「情熱大陸」出演。Instagramのフォロワーは190万人を超える。(2019年4月現在)。「MINIATURE LIFE展 田中達也見立ての世界」が国内外で開催中。

【田中達也さんのリンク集】

MINIATURE CALENDAR
Instagram
Twitter
Facebook

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1984年生まれ、長野県安曇野市出身、東京在住。ライター兼カメラマン稼業と並行してレゲエ・スカバンド「KaRaLi」「Tropicos」「The Kingstompers」などでも活動している。

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