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ヒゲピカ

ヒゲピカ

長年のライター経験から裏打ちされた洞察力、ロックDJとしての審美眼を兼ねたお髭のマツオカと、元お笑い芸人ゆえの独創的な発想力を活かした切り口のインタビュー&ライティングに長けるハヤシモトケイスケによるユニット。この出鱈目な世の中で、真実に向かい吠える二匹の狼。

2019年4月22日
ツワモノたちのセカンドキャリア

大道芸人(バスカー)スターダック トニー/ツワモノたちのセカンドキャリア vol.3

「バスキング」という言葉をご存じだろうか。聞きなれない言葉だろうが「大道芸」といえば分かりやすいかもしれない。要は、路上でパフォーマンスを行い、観客から投げ銭を集めることで、大道芸人はバスカーとも呼ばれる。

ド派手な黄色のワゴンが、行き交う人々でごった返す新宿の街を駆ける。 台車部分を大胆に改造した“バスキングカー”の扉が開くとステージが登場。ミニギターを抱え、アヒルのマスクをかぶった男が姿を現した。

鳴り響くギターのカッティング音。それに合わせ、笛のような“ピーピー”とした鳴き声で、キャッチーな音楽を奏で始めると、通行人は「!?」という表情で立ち止まる人もいれば、「あ! トニーだ!!」と駆け寄る人も。彼の周りは、一瞬にして大勢の人だかりができた。

彼の名前は、スターダック トニー。今、世間の話題を集めるバスカーであり、パフォーマーだ。

トニーはやはり主戦場である“ストリート”が似合う

波照間島で見た星空がバスカー(大道芸人)の原点に

スターダック トニー。本名不詳。大阪府出身。

もともとは、大阪のパンク/ハードコアシーンで活動。しかし、彼が35歳の時、ある決断をする。

「ある日、このまま何もせずに、死ぬ前に自分の人生を見つめ直した時に、良かった!と胸を張って言えるのかな?と思ったんです。もともと、ビビりの性格なんですが、一方で、こうと決めたらとことんまでやるのも昔から。それで、自分の人生のすべてをかけて、旅に出ようと思ったんです。まず、当時住んでいたマンションを解約して住む場所を失くしました。その後すぐに、奄美大島~沖縄への旅に出たんです」

「戻る場所を失くす」という決意。それは何も、“住む場所”だけの話ではない。

「先ほども言いましたけど、僕、すごいビビりの部分があって…その当時、何が一番怖かったかと言うと、パンクの仲間たちの輪から抜けるということでした。そのころの自分のすべてでしたから。

僕の人生のすべてから去るというこの決断はすごく勇気がいりましたけど、やっぱり最後は自分の気持ちですよね。『あのとき、やっとけば良かった』という、後悔だけはしたくなかったんです。『旅に出てみたい』という強い思いが、そういった怖さを上回ったんです」

家財道具や家電、それまでコレクトしたたくさんのレコードなどをすべて処分し、ギター一本だけを抱えて向かった奄美大島~沖縄。

そこで、今後の人生を大きく変えるきっかけを得ることになる。

「日本最南端の波照間島で見た満天の星空ですね。180度、見渡す限りの無数の星に天の川…。それを見た時に、自分がやりたいことがはっきりとわかったんです。それが“感動する”ということ。

『世界にはまだまだ僕の知らない“感動”があるはずだ。いろんなところに行って、もっともっと“感動”したい!』という感情が爆発したんです。こうして、世界一周の旅に出ることを、波照間の星空に誓いました」

行き急ぐ人たちの足を止めさせる魅力の源とは?

世界一周バスキングの旅で得たもの

これから続く“人生”という旅を、行きたいところに行き、やりたいことをやり、素直に生きていこう。いったん大阪に戻ったトニーは、車の屋台をしながら日本を巡って、世界一周の資金を稼ぐという暴挙(!?)に出る。

屋台の名前は「忍者屋台 ONE LITTLE TRAVELER」。「かき氷やたこ焼きを売りながら、車で寝泊まりする生活」を送り、紆余曲折の末に“バスキング”で稼ぎながら世界へ行こうという思いが日に日に強くなっていったという。

「沢木耕太郎さんの本に書かれていた“旅に出るときは2度と出来ない旅に出た方がいい”という言葉に後押されました。結局、屋台を丸2年間続け、そんなに貯金も貯まりませんでしたが、勇気を出して2012年、オーストラリアから世界を目指す一歩を踏み出すことにしました。

屋台時代を含めると、3年8カ月。5大陸19ヵ国をバスキングしながら旅しましたが、時には荷物を盗まれたり、大変な目にも当然遭いました。だけど、盗まれて30分後には、もう路上でギターを弾いていた(笑)。

『くよくよしていても始まらない!』とすごいポジティブな気持ちになれましたね。日本では考えられないくらい、受け身だった自分から、立ち向かっていく自分に変われたというか」

世界一周の珍道中や笑いと涙のエピソードは彼の著書「トニーの俺行くし!! 世界一周バスキングの旅」(出版ワークス刊)に詳しいので割愛するが、振り返ってみて、改めて世界一周の旅はトニーにとってどのようなものだったのか?

「今でもそうですが、まずは、自分に素直でいたいと思いました。いつも重要なのは自分が今立っているここや、そこや、あそこで、どう物事を見て、自分の心は何をしたがっているのか、ということ。

今、自分が置かれている状況に、少しでも満足できるように生きていけたらすごいことだな、と。そりゃ、生きていれば文句のひとつも出るものです。でも、文句の話はさらに新たな文句を生む気がします。

世界を旅して、チャレンジしてなにかに向かってる人にたくさん出会いましたが、彼らは本当に素敵でした。だから、僕もそうなりたいなって思いました。それは、人それぞれ、例えば、家族を絶対に幸せにするとか、色んな形があると思いますけど、今、自分が置かれてる状況に少しでも満足できるよう、一分一秒でも良い時間を過ごせるように生きていけたらと思いましたね」

世界一周旅の経験がトニーの活動に強い力を与えた

パフォーマーとしての覚醒

「一分一秒でも良い時間を過ごせるように生きていけたら」。

世界一周の旅で培ったその思いは、彼にあるひらめきを与える。それが、現在のトニーのトレードマークでもある“アヒルマスク”のスタイルだ。

「世界でのバスキングでも、アヒルマスクはかぶっていたのですが、帰国して、改めてマスク姿でパフォーマンスした時に、なにか自然に世界へ行ってる時の感覚に戻れたというか『あ! 俺、アヒルかぶって人を笑わせるの、好きやねんや!』と痛烈に思えた瞬間があって。

そもそも、アヒルのマスクをかぶってギターを弾きながら、手品まで披露するというパフォーマンスは一風変わったスタイルだと思うけど、僕は今、何をしてる時が一番楽しいんだ?と自分に聞けば、間違いなく『アヒルかぶってバスキングし、人が笑顔に変わる瞬間!』となりますから。だから余計に“バスカー”にこだわらず、もっと広い意味での“パフォーマー”になりたいと、帰国後に思うようになりました」

ハイテンションのパフォーマンスがSNSで話題に!

調子のいい時だからこそ原点に立ち返る

スターダック トニーとして日本を旅し、神出鬼没にパフォーマンスをしていると、SNSを中心に話題となってきた。TwitterやYouTubeに上げられた動画が、俗に言う“バズった”効果は絶大で、彼を囲む観客は日増しに多くなっていく。

そんな彼をメディアが放っておくわけもなく、TOKIO出演の特番に登場したり、谷原章介の深夜番組に呼ばれたりと、露出度も急激に増えた。

しかしトニーは、決して浮かれる様子はない。現に、メディア露出が増え、お客さんも多く集まってきた絶好調の時期に日本を離れ、海外に武者修行に出るなど、活動はストイックだ。

「本を読んでくれた人とか、テレビを観てくれた人とか、声をかけてくれるお客さんも増えたけど、それは一過性のものやとわかっているから。それに、企業のパーティなどで何百人もの前でパフォーマンスをすることもあります。

それはそれで嬉しいし好きなんですけど、やっぱりバスキングカーのステージで、神出鬼没にパフォーマンスするスタイルが今のところ一番ですね。雨の日や風の日、寒い日や暑い日というのは、それはそれは厳しいですけど、それでも、お客さんとの掛け合いをやって一緒に盛り上がれる瞬間というのは、何物にも代えがたい

本当に感動と興奮しかないですから。僕の出現、そこにたまたま居合わせたお客さんたちとの出会いというのは、それだけで奇跡だと思うんです。さらに掛け合いで盛り上がれた時は、もう”生きてて良かった!”と思える瞬間の一つですね」

トニーの掲げる精神論「俺行くし!!」とは?

これらも精神は「俺行くし!!」

トニーと言えば、書籍のタイトルにもなっている代名詞的な精神論“俺行くし!!”だ。
改めて、この言葉の意味を聞いてみた。

「これは、どこかに行くってことと間違えられることもあるんですが、実はスピリットの話なんです。屋台時代に、奄美大島~沖縄の旅で出会ったある人と一緒に、島根まで行ったのですが、いろいろ話をしていて“『俺行くし!!』っいう感じが身体から溢れ出てるヤツって、無敵やんな?”みたいな話になって。

言葉にするのは難しいけど、なんかこう、突き抜けてるような感じというか、周りの目も気にせずに自分の思うがままに突き進む感じというか…。物事って、本当はめっちゃシンプルだと思っていて。実際に、いつも答えをややこしくするのは自分自身だから。

例えば難しそうなことも結局、やるか、やらないかだと思うし、下手とか上手いとかよりも、本当に“やるか、やらないか”が大事だと思っていて。例えば世界一周中だったら、ブラジルに行ってバスキングするってなると、その時は、やっぱり始めはすごく怖いんですよ。

その時に自分自身に問うんです。『ここまで来て、お前どうする? 行くんか? 行かへんのか?』みたいな感じで。それから『人生、一度きりやねんぞ』ってさらに問うて…。結果『俺行くし!!』と鼓舞するって感じでしょうか。しかし、今でこそ『俺行くし!!』とか書けますけど、最初、“俺”って漢字を間違えてて、 右側を“竜”って書いてましたけどね(笑)」

先述したが、人生を大きく変えるきっかけとなった波照間島の星空。世界の旅が終わった後で、再び原点に立ち返るべく、今一度見に行ったそうだ。その時の素直な気持ちを教えてくれた。

「世界一周を決めたあの頃と、まったく同じ美しすぎる星空でしたが、僕が抱いた印象は全然違いました。『あ、いま僕、毎日この景色を見てるわ』と思えたんです。今の状況や環境の素晴らしさを実感できましたね。

僕が目指して、一歩踏み出した道は間違えてなかった、自分に嘘をつかずに生きることができている、と。なんだか波照間の星空に『おかえり、このまま行けよ!』と言ってもらったような気がして。良かった、と心から思える出来事でした」

そんなトニーに、パフォーマンスへの取り組み方やこれからの展望を聞いてみた。

「日々、パフォーマンスの向上を目指しているのはもちろんですが、今回、バスキングカーも車体の外装やステージの装飾、ライトなどをリニューアルして“ネオバスキングカー”としてパワーアップさせました。これも、前回のバスキングカー制作と同様に、多くの人の支援で生まれたものです。

今回もまた、お金の額面や人数ではなく、いちばんに『思い』をもらえたと強く感じられましたので、原動力になりました。本当に、ありがたいと思っています。昔、忌野清志郎さんのコンサートに行きたかったんですが、チケット代のことを考えてしまい、諦めた過去があるんです。

そのせいで、もう二度と、清志郎さんのライブを観ることはできませんでした。結局、自分が思った時に(そのまま)行動を起こすのがベストタイミング。お金に負けたくないし、一人でやってるので孤独を感じることはありますけど、できるだけ人に頼ってばかりにならないようにできたらと思う。

だけどもちろん、僕も、人に助けられたりブレることもあります。住居を失くした時、旅に出ると決めた時、みんなから嫌われてもいい!と腹を括ったつもりでしたが、やはり、嫌われるよりは好かれたいですよね(笑)。

迷いや悩みが訪れた時の選択肢として、やっぱり『俺行くし!!』があるんですよね。だから、人にああせい、こうせいと言える立場ではありません。ただ、パフォーマンスだけは、ブレずに、自分に嘘をつかずにできていると思っています。それを見て、何かを感じてもらえたら、うれしいですね」

よりゴージャスにリニューアルした“ネオバスキングカー”

神出鬼没なトニーに出会える日が来ることを願って…

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取材後記

新宿でのシューティングの際、突如現れたアヒルマスク姿の男に驚いた大勢の外国人観光客からもカメラを向けられ、一時、騒然に。それに笑顔で対応するトニー。

日本、海外を問わず、一度音を出せば、様々なトラブルは付き物のストリートでのパフォーマンス。それを乗り越えてきたからこその、一種の“タフさ”を身に纏っている彼の姿は頼もしく、実際の身長よりも数倍大きく見えた。

また、トニーは言う。「新しい場所や久しぶりにストリートに出る前は、今でもたまにビビるときがある。だけど、あの、お客さんとの掛け合いをする時に最高だと思える瞬間があるから、前に進んでいける」と。

ネット時代に突入し、ニュースでもなんでも“フェイク”がまん延している世の中。

これを読んでいる皆さんも、ある日路上で、“本物”と出会える日が来ることを願いたい。

きっと、相も変わらず、アヒルマスク姿で、ギターをかき鳴らす彼を目の当たりにすれば、笑顔以上の“何か”を持って帰れるはずだから。

スターダック トニーさんのご紹介

1974年生まれ、大阪府出身。
パンクバンドで活動後、世界一周の旅の資金を貯めるべく「忍者屋台 ONE LITTLE TRAVELER」を開始。2012年に、念願の世界一周バスキングの旅へ。5大陸19ヵ国を制覇した。帰国後の2017年には著書「トニーの俺行くし!! 世界一周バスキング旅」を発売。現在も“ネオバスキングカー”で日本全国を精力的に周り、路上パフォーマンスを披露し続けている。

スターダック トニーさんのリンク集

YouTube「STARDUCK TONY CHANNEL」


「トニーの俺行くし!! 世界一周バスキング旅」(出版ワークス刊)

撮影/斎藤大地

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