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坪根育美

坪根育美

神奈川県出身。編集者・ライター。おもに、ものづくりや働き方をテーマに雑誌、Webメディア、書籍をはじめとする媒体で編集と執筆を行う。日々取材をしながら自分自身も新しい働き方、生き方を模索中。

2019年10月17日
ミレニアルズワーク〜未来と直面する世代のワークスタイル

プロゲーマー あばだんご/ゲーマーが『スマブラ』で生きることにした理由

プロゲーマーあばだんご/ゲーマーが『スマブラ』で生きることにした理由

「eスポーツ(esports)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

「エレクトリック・スポーツ」の略で、PCやゲーム機を使って行われる対戦型競技のことを指す。欧米や中国を中心に大きな盛り上がりを見せており、その波は日本にも広がっている。2022年には29億600万ドルまで市場規模が拡大するという予測もあり、これからますます見逃せない業界だ。

実力・知名度ともにトップクラスのプロゲーマーとして活動しているのが、「あばだんご」氏だ。果たして彼はどのようにプロゲーマーになったのか。そして、その先にはどんなキャリアプランがあるのか。気になる話を探ってきた。

6歳から始めて、スマブラ歴は約20年

取材風景(プロゲーマーあばだんご)

取材は所属する忍ism(シノビズム)の事務所で行われた。

「物心がついた頃、たぶん3歳ぐらいからゲームをやっていました。『スマブラ』は小学校に入った6歳の時に買ってもらって、ずっと遊んでいました」と話す、あばだんご氏。『スマブラ』とは任天堂の人気対戦型ゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』のことだ。

あばだんご氏は現在26歳。この『スマブラ』を競技タイトルに活動している、トップクラスのプロゲーマーだ。『スマブラ』をしない時期もあったというが、6歳からやり始めたことを考えるとその歴はかなり長い。

小学校から中学校の時は、友達やCP(ゲーム内の仮想プレイヤー)を相手に対戦を続けた。もともとの素質もあったのだろう、気がつけば高校に入る頃には地域で指折りのプレーヤーになっていた。

その一方で、もの足りなさも感じていたあばだんご氏だったが、高校一年生のときに出たWii版『大乱闘スマッシュブラザーズX』によって状況が変わる。オンライン対戦ができるようになったのだ。

「地元だけだと遊べる人が限られてしまうけれど、オンラインだと無限に対戦相手がいるんです。強い人を新しく探して遊んでいました。世界の広さを知りました

部活動のように『スマブラ』に明け暮れた高校時代

取材風景(プロゲーマーあばだんご)

受験勉強中もスマブラはしていたというほどゲームは生活の一部。

オンライン対戦によってさらに『スマブラ』に夢中になった。だがこの頃は特に強くなりたいという気持ちはなかったという。

ある日、SNSでオフラインの大会参加者の募集を見つけ、気軽な気持ちで行ってみたところ、まさかの予選落ち。このことをきっかけに個人の自宅で行われるオフラインの対戦、通称「宅オフ」に頻繁に行くようになった。

集まるメンバーは社会人や大学生が中心だったが「部活動のようだった」とあばだんご氏は振り返る。こうして『スマブラ』に明け暮れる高校生活を送ったのち、2013年4月に東京農工大学情報工学科へ入学した。

実はこの受験勉強中、あばだんご氏の心を惹きつけた出来事があった。

「『スマブラ』の日本のトップ勢が海外遠征で1位を独占した様子を配信サイトからリアルタイムで観ていて。それで自分も行ってみたいと思ったんです。

一緒に対戦をやったこともある人たちが海外で活躍しているのを目の当たりにして、『自分の力を試してみたい。次の年は僕も行こう』と思いました」

有言実行。大学1年の冬、初めての海外大会に参加するためアメリカへ飛んだ。挑んだのは、300〜400人が参加する大会。当時、100人を超える『スマブラ』の大会自体がほとんどなかったことを考えると、かなりの規模だ。果たしてーー。

「結果は、48位でした。自分としてはベスト8を一つのラインと思っていたけれど、かすりもしなかった。悔しいというよりも、単純に実力が足りなかった。思っていたよりも自分はだめだったんだなと」

初の海外大会で完全燃焼? そこからの復活

取材風景(プロゲーマーあばだんご)

まるでピアニストのような美しい手を持つあばだんご氏。

海外大会から帰ってきてからのあばだんご氏は、それまでの情熱が燃え尽きたかのように『スマブラ』からどんどん離れていった。

「大学でオリエンテーリングのサークルにも入っていたし、別のゲームもやってみたくなったんです。『機動戦士ガンダム エクストリームバーサス』や『ストリートファイター』シリーズとか。大学2年生のときはそんなふうに過ごしました」

転機は2014年大学3年生の時に起きた。『大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS』の新作発表があったのだ。

新作ではスタートダッシュというか、最初からいい成績を取ろうと。そこからまたがんばろうと思ったんです」

その気持ちは生半可ではない。発売までの間、当時家の近くにあった大型スーパーの店頭体験会にひたすら並んでプレイをしていたというのだ。

「1プレイ2分とかなんですけどね(笑)。でも周りより少しでも早くやっていたほうが有利だと思っていました。ひたすらやって、自分に合うキャラクターを探したりしていました」

発売されてからは、ひたすらオンラインで対戦し、オンラインの大会があれば参加。そして、発売2週間後に東京で開催された大きな大会「ウメブラ」の第8回に出場。200人ほどの参加者の中でついに準優勝を果たしたのだ。

「狙いどおり、いいスタートを切れたなと思いました。でも……」

実は、このとき優勝したのは以前からあばだんご氏と対戦してきたプレイヤー「にえとの」氏。あばだんご氏が受験勉強の傍らで観ていた海外大会で活躍した一人でもある。

にえとの氏が第8回ウメブラの優勝直後にプロチームからスポンサードされたことがあばだんご氏の耳にも入った。もし優勝できていたら、スポンサードされたのは自分だったかもしれない。プロゲーマーの道がいままでになく現実味を帯びた瞬間だった

第8回ウメブラのあと参加したアメリカでの大規模イベント「APEX2015」ではベスト8に。フランスでの大会に招待されるほど海外からも注目され、さらに快進撃は続いた。

プロゲーマーになるために実績をつくる日々

取材風景(プロゲーマーあばだんご)

海外大会に出場する際は1週間ほど現地に滞在する。「教授の理解のおかげでできました」

この年の春、大学4年生になったあばだんご氏は、その後も海外大会に参加。

「理系の大学なんですけど、大学院に進学するのが当たり前の環境だったんですよね。だから就職は考えずに、ひたすら海外遠征を続けていました。運がよかったのは、研究室の教授が自分の活動を理解してくれたこと。すごく感謝しています」

念願叶って、カナダのゲーミングチームに加入

取材風景(プロゲーマーあばだんご)

とても話しやすい印象だったあばだんご氏。

2015年7月には、アメリカ・ラスベガスで開催された格闘ゲームの祭典「Evolution Championship series 2015(略称EVO2015)」へ参加。このときも4位の好成績を残したが、心に引っ掛かることがあった。

「まわりのトップ8の選手がみんなスポンサードされているか、この大会のどこかのチームに入っていたんです。そこから、ますますプロになることを意識するようになりました。同じ土俵にいるはずなのに、なんなら自分のほうが上位でもあるのに、という気持ちでしたね」

この頃、海外での遠征を続けながらプロになってスポンサードを受けるために海外のチームに売り込みメールを手当たり次第送り続けたという。このメール作戦は、残念ながら実を結ばなかったものの、翌年参加したEVO2016で6位になったとき、ついにスポンサードの声がかかる。カナダのゲーミングチーム「Luminosity Gaming」に念願のチーム入りをすることができた。

「チームに所属してから海外大会の渡航費を出してもらえるようになりました。約1年の契約期間でしたが、2017年にはほぼ毎月海外大会に行くことができました」

あばだんご氏のプロゲーマーとしてのキャリアはここからスタートした。

チームに入ることと、フリーランスでいることの違い

コントローラー

コントローラーを支える中指には「ゲームたこ」ができていた。

大学院の卒業まで1年となっても就職活動はしなかった。このときには、ゲームで生きる道があるんじゃないかと思っていたからだ。もしだめでも貯金を使えば1年は模索できる。そんな計算もあった。

「2017年12月にLuminosity Gamingとの契約が終了したあと、修士論文を出して卒業が決まりました。『これから収入もないしどうしよう』と思ったときに本格的に始めたのがYouTubeでの動画配信です。『スマブラ』は若い層に人気があるし、当時大会に出ているプレイヤーの動画配信があまりなかったので、間違いなくここはいけるな、と思いました」

その計算は当たり、2018年2月から本格的に始めたYouTubeチャンネルの登録者数は、2019年10月現在12万人にのぼっている。

あばだんご氏のユニフォーム

大会で着用する忍ismGamingのユニフォーム。

YouTubeに対戦動画を上げたり生配信を行いながら、大会に出場する暮らしを送っていたあばだんご氏。フリーランスのプロゲーマーとして活動をしていたが、2018年12月に日本のゲーミングチーム「忍ismGaming」に入ることが決まった。

チームに入るメリットについてあばだんご氏はこう話す。

「僕が一番やりたいことは大会に出て活躍することです。安定した収入があるので大会に向けて集中できる、というのがチームに所属するメリット。フリーランスでの活動だとYouTubeで収入を得ないといけなくなるので生配信したり動画を編集したりとほかにするべきことが出てきてしまう。YouTubeは目的じゃなくて、あくまで手段なんです」

プロゲーマーの収入は、チームに所属することである程度保証される。大会での賞金もあるだろうと思う人もいるかもしれないが、現在日本では法規制の壁があり、ほとんどの大会で賞金が出ない

一方、海外の大会では参加者のエントリーフィーが賞金になるシステムこそあるが、「本当に安定したいと思うなら毎回1位になるくらいじゃないといけない。8位程度ならお小遣い程度」だという。どちらにせよ賞金を充てにするのは現実的ではないのだ。

取材風景(プロゲーマーあばだんご)

所属するプロゲーマーのためのゲーミングPCが並ぶ忍ismの事務所。

「プロゲーマーになるのは、もうそこまで難しくない時代になっているはずです。ここ数年でだいぶ変わりました。逆にいうとプロゲーマーは飽和している。

そういう人たちはいまいくらでもいるので、大会に出ることやスポンサードされるのが最終目標だと続かないと思います。なったあとに自分が何をしたいとか、どう価値を生み出すのかを考えていかないといけないと思います」

ゲームに関係ないことはしない。夢がないから

取材風景(プロゲーマーあばだんご)

「ファンの方に支えられています」とあばだんご氏。

現在のあばだんご氏の平均的な一日はこうだ。朝10時から正午の間に起床し、夕方までは動画編集やオンライン対戦をしながら過ごす。夕方以降は都内で開かれる大会に参加するか、自宅で動画の生配信。就寝は深夜2時から4時頃が多いという。

「ゲーマーは夜型の人間が多いので、これでもゲーマーの中ではいいほうだと思います(笑)。いまはゲームと関係ないことをやる気はありません。僕がバイトしてたら夢がないと思うんです。だから、ゲーム以外はやらないようにしているし、大学院を卒業したあともバイトは一度もしていないです」

さらに、自分はプロゲーマーとして働いている感覚はないと続ける。

好きなことを、楽しんでやっている部分が大きい。あえて言うなら、自分の活動を通して『スマブラ』をやる人が増えたり、大会に出て参加してくれたり、シーンに貢献できる部分に価値があると思っています」

プロゲーマーからのキャリアプラン

取材風景(プロゲーマーあばだんご)

今季の世界大会のランクは20位。最終的には10位以内を目指しているという。

現在26歳のあばだんご氏は世間一般的にいえばまだまだ若い。だが、プロゲーマーの視点では異なる。eスポーツの歴史は20年あまりと浅く、プロゲーマーとして活躍しているのは10代〜20代前半が中心という若い世界なのだ。20代後半で大会のトップ10に入る人物はごくわずかだという。

そんな世界で生きるあばだんご氏は、今後どのようなキャリアプランを考えているのだろうか。

「業界自体が若いから年上の人があんまりいなくて。だから、ほんとうに年齢で淘汰されるものなのか分からないんですけど、30歳まではプロゲーマーとして活動したいと思っています。そこからは、ほぼノープラン。選手としてそのままいられたらベストですが、それが無理ならコーチ業をしてみたいですね。

チームで対戦するゲームは作戦が重要なのでコーチがいることが多いんです。1対1のゲームだと日本ではまだ少ないんですけど、海外では結構いて、コーチをつけてからバンバン優勝したり、実力をつけたりする選手が多くいます。

あとは大会を開催するイベンターもやってみたい。ゲームをつくるというよりは、ゲームを使って何かやる側のほうが自分は楽しいですね」

これまでに自分の力で好きなことを仕事にしてきたあばだんご氏は、この先も自らの手で未来を切り開いていくのだろう。最後にプロゲーマーの魅力について聞いてみると、こんな気持ちのいい答えが返ってきた。

僕はいま、『スマブラ』を仕事とは思わず楽しんでプレイしています。それができるのが一番の魅力ですね。結局ゲームって、『遊び』なんです。『スマブラ』は特にキャラもプレイヤー人口も多いので、興味が尽きることはないですね。『楽しい』以外の魅力が思いつかないです」

取材後記

まだまだ発展途上にあるeスポーツ業界は、今後さらに大きなシーンになる可能性を秘めている反面、不安なことも多いのではないか。最初はそう思っていた。

だが、あばだんご氏の話を聞いているとゲームが本当に好きで、楽しんでやっていることが素直に伝わってきた。使命感を持って仕事に携わることも大切だが、純粋に「好き」や「楽しい」を追求していくことも同じくらい価値がある。そんなふうに改めて思わせてくれた取材だった。

あばだんごさんの紹介

プロゲーマーあばだんご

2018年12月より日本のゲーミングチーム「忍ismGaming」へ加入。スマッシュブラザーズ界では国内外問わず圧倒的な知名度を持つ。動画の生配信では同時視聴15,000 人、YouTubeチャンネル登録数12万人オーバーと他を追随させない人気がある。前作の日本人大会成績をランキング化したJPRでは強豪多数の中堂々の1位を獲得した。

主な大会成績

EVO Japan 2018 スマブラWiiU 準優勝
ウメブラ32 スマブラWiiU 準優勝
Smash Sounds(アメリカ) スマブラWiiU 準優勝
ウメブラ33 スマブラWiiU 優勝
ウメブラSP4 スマブラSP 優勝
Stunfest 2019(フランス) スマブラSP 3位
EVO2019 9位タイ
スマッシュボール杯西日本リーグ 1位通過
スマッシュボール杯日本選手権 準優勝

あばだんごさんのリンク集

【あばだんご】
YouTube:あばだんごチャンネル
Twitter:公式アカウント

【忍ismGaming】
公式HP:忍ismGaming
YouTube:忍ism Gamingチャンネル
Twitter:公式アカウント

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神奈川県出身。編集者・ライター。おもに、ものづくりや働き方をテーマに雑誌、Webメディア、書籍をはじめとする媒体で編集と執筆を行う。日々取材をしながら自分自身も新しい働き方、生き方を模索中。

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