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長井杏奈

長井杏奈

生きるために食べるというより、食べるために生きている節があるフリーライター。好きが高じてグルメ系の記事を書くようになる。他には、ウェディング、トレンド、人事・採用系がメインジャンル。ライターの傍ら、司会・MC業も務めるパラレルワーカー。趣味は、一人旅に出ること、小説を読んだり書いたりすること、飲み会の幹事をすること。

2020年2月13日
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VRアーティスト せきぐちあいみ(クリーク・アンド・リバー社所属)/自分を媒体にテクノロジーで「楽しい」を発信する

せきぐちあいみ/VRアーティスト

社会の変化やテクノロジーの進化に伴い、時代ごとに新しい仕事が生まれる。仕事を切り拓く者には、常に先駆者としての壁が立ちはだかっていることは想像に難くない。その障壁を乗り越えたとき、後追いの人間には味わえない達成感と大きな成果がもたらされる。

今回はVRの世界で時代を先導する、せきぐちあいみさんにお話を伺った。VRアーティストとはいったいどんな仕事なのか、せきぐちさんはこれからどんな道を私たちに示してくれるのだろうか。

お絵描きから生まれた「人を楽しませたい」という思い

VRアーティストとして、VR空間にさまざまな絵を描き立体的な世界を構築するせきぐちさん。彼女は取材中、「人を楽しませたい」という言葉を繰り返していた。そんな強い思いは、幼少期に形成されている。

「幼稚園のときからお絵描きが好きでした。描いたものを見せるとおばあちゃんが喜んでくれて、褒めてくれました。お絵描きそのものより、絵を描いて喜んでくれるのが嬉しかったです」

小学生までは友達と遊んだり、絵を描いたりと楽しい子ども時代を過ごす。アニメではセーラームーンが好きで、よくテレビで観ていた。しかし中学校に上がるとともに、世界が一変した。

「中学で東京に引っ越してきてから、ちょっといじめられちゃって。どんどんふさぎこんでしまって、中学時代は暗黒期でした」

今や世界を舞台に大活躍する彼女からは想像できない、暗い時代を3年間耐え抜いた。そして中学も卒業を控えたころ、演劇の体験会に参加する。それが、人生のひとつの転機となった。舞台で芝居をしたとき、自分が何かを作りそれを人が楽しんでくれるということに幸せを感じたのだ。自分は、こういう道で生きたい。暗い毎日の中に、一筋の光が差した瞬間だった。

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

チラシ裏に描いた何気ない絵も褒められたことが現在の彼女の原点

「中学のときって、世界が狭いですよね。私はいじめられてたことで、自分には何も価値がない、いらない存在だと思ってしまっていました。でも、人を楽しませることで生きがいを感じられるようになったんです」

その後、彼女は芝居の世界に飛び込んだ。しかし演技がものすごくうまくても売れてない役者を目の当たりにして、「舞台でやっていくことは素晴らしいが、効率が悪い」と感じた。

「それでも私は頑張りたいと思って、舞台に上がれるわずかな人がどんな人なのか観察したんです。そういう人はやっぱり、売れてる人なんですよ。舞台をやるとき、東京公演はもちろん、全国を周っても席が埋まりますという状況でないと成立しません」

現実に気がついた彼女は、論理的に戦略を組み立てた。舞台に出るためには全国にファンを持つ必要がある。しかし今すぐにテレビに出て売れるかと言われると、決してそうではない。そんなとき、アイドルにならないかという話が持ち上がった。正直なことを言えば、自信はなかった。しかし人を楽しませる仕事がしたいという目標を達成するために、アイドルとして活躍することが役立つ。ファンができることで自分が作るもの楽しみにしてくれる人が増えるのではと思い、新しい道に進む決意した。

ネットの世界で個人での活動をスタート

レッスンを受けてアイドルとして活動を始めたが、実際にスタートしてみてから「人と組むのが難しい」と感じた。オーディションを突破した数人の同世代とグループを組んでみたものの、「自分のやりたいことは、人生かけて頑張る」という彼女のスタンスと、ほかのメンバーとのスタンスには乖離があったのだ。
「私は本気で取り組むのが当たり前だと思っていましたが、それは人によって違いますよね。でも私はどうしても自分の価値観を押し付けがちになってしまって、今振り返るとすごい大失敗、反省だなと思っています」
そうしたすれ違いから、アイドルとして花を咲かせることはできなかった。しかしこの活動は無駄ではない。アイドルとしていろいろな人を見ていくなかで、「人に使われたり、誰かに左右されたくない」という意識が生まれたのだ。そこで始めたのが、インターネットでの活動だ。

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

YouTubeに3Dペンを使った動画をアップし公式認定も得た

「これからはネットだなと思って。YouTubeやニコニコ動画、当時存在していたUstreamなどいろいろ試してみました。その結果、YouTubeがこれから一番可能性があると感じたんです」

2020年の現状を見れば、彼女の先見の明は見事に当たっていたことは明白だ。まだYouTuberという言葉もない時代、ひたすら動画を投稿し続けた。するとYouTubeから収益化システムを作るため、コンテンツを作れる人間を集めて教育したいという話が舞い込む。そこからは、HIKAKIN氏など初期から動画投稿をしているメンバーが集められ、勉強会やイベントが開催された。

当時、もちろんVRは技術すら確立していない。そのなかで彼女が投稿していたのは、「腹筋を毎日する動画」であった。意外に思えるかもしれないが、もちろんなんとなく投稿していたわけではない。ここにも、彼女の高い戦略性が隠されている。

「内容的には本当にくだらない動画で。けど、当時は一般人が何かをどんどん発信していくこと自体ほぼない時期でした。有名人を見たい人はテレビを観る。でも、あえてネットを観たい人というのは、普通の人の生活を“のぞき見”している感覚が欲しいんだろうと思ったんです」

そこで家の中で腹筋をしながら、世間話をした。部屋の中はあえて洗濯物を見切れさせて生活感を出すなど、工夫を凝らしていたという。

VRと出合い、VRアーティストの道を歩み始める

YouTuberとしての活動を続けていくなかで、2016年、運命の出合いを果たす。とあるイベントに取材に行ったとき、VRを体験したのだ。

「魔法みたいって思いました。空間に立体を描けることがなんて楽しいんだろうって」

もともと空中に立体作品を作り出すことができる3Dペンを使ってものを作る活動はしていたが、VRは3Dペンをはるかに超越するスピード感と立体感があった。何より、360度自分で世界を構築できるところに魅力を感じた。新しい出合いを機に、彼女はVRが作る空間をSNSで発表していった。しかし作り手側はVRを観る最適の環境があるが、視聴者の手元にVRゴーグルやVRヘッドセットといった専用ツールがないことのほうが多い。しかもPCではなくスマートフォンの小さい画面で見られることがほとんどだ。

そこで、二次元の映像で観てもVRの奥深さを伝えるにはどうすればいいのかを研究した。そのための線の描き方や動き方に気をつけ、立体感を押し出した。「VRというのは、こんな新しいものなんだ」と思ってもらえるよう工夫を重ねた。

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

初公開の作品は、友人の「出した方がいい」という一言に後押しされて投稿した

「初めて作ったものは下手だし、本当は人に見せたくないと思ったんです。でも全部出していくことにしました。まだ手直しできそうなものでも、アップするとすごく反響がもらえて、どんどん発表していく大切さを感じました」

投稿する動画が増えるにつれ、彼女のもとに舞い込む仕事も増えていった。現在ではライブイベントに参加してVRでアートを描いている姿と作品そのものの両方を披露したり、ブランドやメーカーのアート制作などを行っている。

ポジティブにすべての仕事を楽しむ

今では、WorldSkills Kazan 2019 Closing Ceremonyなど、世界を舞台に大きな案件も任されている。しかし仕事の大小関係なく、すべてを楽しんでいるという。

「ロシアで4万人の前でイベントをしたときも、10人だけの会議室で披露したときも、どっちも楽しかったです。ライブペイントであれば目の前で楽しんでもらえるのが嬉しいし、アート制作であれば『こんなの想像してなかった』と喜んでくれるのが嬉しいです」

同時に、やはりつらいこともある。製作依頼がきても、アイデア浮かばない日もあるそうだ。そんなときに身を助けるのが、ポジティブな考え方だ。

「しんどい時期をクリアすると、ちょっとレベルアップするじゃないですか。だから、つらいけどまた経験値を積めるなと思ってやっていますね。絶対無理って思っても、どこかで『どうせまた超えられるから大丈夫か』って思います」

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

普段は元気だが、疲れているときは「誰かご飯作って……」と思うことも

まだまだ認知度の高くないVRアーティストという仕事だが、最も必要な資質はどんなものか尋ねてみた。それは、想像力だという。絵のうまさや空間把握能力が必要かと聞かれることも多いが、すべてを超えるのが想像力だ。実際に、VRアートの講師として初心者に教えるときでも、絵のうまい人より想像力がある人の方がいい作品を作る。自分が作るものをどう作り、どう見せていくかを想像して初めて素晴らしいアートが生まれる。

どんな仕事でも、それが生まれたときと世間に定着したときでは、求められるものが変わってくる。今、新しい仕事としてVRアーティストが認知されつつある時代に必要なのが、自分自身が前に出て広めていくという精神だ。

「私が今こうやって仕事できているのは、アートを製作できるからだけではありません。VR自体を広めていく活動と、VRを使ったパフォーマンスをして、こんなことができるんだよって見せていく活動をしているからだと思います」

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

特徴的な見た目でVR空間だけでなく現実世界も華やかに演出

まず自分自身が前に出て説明しなければ始まらない。しかしこれは、現在のタイミングだからだという。VRがもっと浸透してスマホのように当たり前のツールになれば、これほど出ていく必要はなくなる。だからこそ、このタイミングで仕事にするのは難しい。

「もっとVRが当たり前になって、たとえば一般の人が3Dアートを部屋に置いておきたいという時代になったら、アートを作って販売してく形が確立しますよね。そのときにはまた働き方が変わってくると思います」

「発信し続ける」ことで得られるもの

アイドルを卒業し、ネットで活動をし、VRアーティストとして活躍するまで彼女が怠らなかったことがが発信を続けることだ。自分が好きだと思うことをとことんやる、そして発信して逃げ道を作らない。そんな信条を持っている。

「顔をさらして自分がやっていることを出している人の方が、当たり前に信用度は高いですよね」

彼女にとって一番優先していることはは、「人を楽しませる仕事をする」だ。叶えるためには、まず人に知ってもらわなければならない。そのためには動画をアップするなど発信をする必要がある。さらにより多く観られるにはどうすればいいか考えなければならない。

「クライアントやイベントプランナーがキャスティングをするとき、実力が同じくらいならYouTubeで継続的に動画をアップしていて、再生回数や登録者が数字としてわかる方を選びますよね。オーディションに参加して結果を出すのも大事ですけど、私は特別な才能があるわけじゃないからこういう努力をしていかなければだめだなって思って」

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

周りの学生でも発信を続けている人が後にプロとなっているという

発信を続けることには、別のメリットもある。発信者だけが得られる情報があるというのだ。

「今の時代、何か調べたいことがあればたくさん情報を得られますが、何かを出したことによって返ってくるリアクションは自分で発信してみないと得られません。思ったよりもPV数が伸びたとか、自分は好きだけど反応はいまいちだなとか」

ファンに何が刺さるのか、そういったフィードバックは検索では得られないし、金で買うこともできない。まさに、自分だけの情報だ。

「たとえば5年間地道に作業する人と、褒められたりけなされたりしながら途中経過を出していく人だと、伸び率が変わると思います。私は別に最終的にいいものを作ってみんなに楽しんでほしいから、今の自分をどう評価されてもいいんです」

こういった考え方は、VRアーティストに限ったことではない。会社員であれば情報が自由に公開できないかもしれないが、フリーランスなどであればどんどん出していくべきだという。

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

彼女のもとにはVRアーティスト志望者が訪ねてくることもあるそう

「発信のデメリットは、自分の信用やプライドが傷つくこと。でもそんなことでビクビクして出さないのは、人生をかけていないんじゃないかって思います」

彼女はよりいい方向に進みそうなことはすべて挑戦している。自分の評判ではなくよりいいものを作ることを優先しているのだ。

三方良しではなく、七方良しを目指す

すでにVRアーティストとして大活躍する彼女が今後成し遂げたいことは、より大きなチームを作っていくことだという。現在は案件ごとに人が集まっているが、ひとつのチームとして確立したいそうだ。価値観の違いは簡単に埋められるものではないから、努力が無駄になってしまうこともある。だからこそ、価値観が似ているチームで仕事に取り組むことが、結果的にパフォーマンスを上げる。

「よく、仕事は三方良しと言いますよね。自分、クライアント、お客さんがハッピーじゃないとダメだし、みんながハッピーなら何でも仕事になるんですよ。今後はそれを三方ではなく七方くらいにしたいと思うんです」

自分、クライアント、顧客、かかわる地域、かかわる業界、プロジェクトに携わった人、みんな幸せになれれば最高だという。こうした考え方からも、彼女の「人を楽しませたい」というブレない気持ちが伝わる。

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

マネージャーは優秀で価値観が合うため、制作に専念できている

あくまで仕事として好きなことに取り組む彼女は、「芝居が楽しいから役者になりたい」「ダンスが気持ちいいからダンサーになりたい」と思ったことがない。彼女が見つめ続けているのは、あくまでそうしたパフォーマンスを通して「人に楽しんでもらえるか」という点だ。

「自分にとってうまくできたかどうかではなくて、観ててくれた人がつまらなければ失敗だし、自分ではだめだと思っても人が楽しんでくれたら成功なんです。私は仕事として人に楽しんでもらうことを考える方がいいかなと思っています」

人前に出る仕事以外でも、結局は誰かを喜ばせるということが仕事の根底にある。問題を解決したり、楽しませたり、そうしたところにフォーカスすることでお金が支払われる。アートとビジネスのバランス感覚が優れているからこそ、彼女は現在の地位を確立したのであろう。こうした 価値観を共有できるチームの構築が目標のひとつだ。

ぶれない軸を持って、すべてを出し尽くす

「人を楽しませたい」という軸を中心に、彼女はアイドルやYouTuberなどさまざまな経験をした。その一つひとつに一生懸命だったからこそ今があり、初めからVRアーティストをやりたいだけであれば、仕事にできていなかったという。どうしたら魅力的なコンテンツを作れるか、どうしたら人に目につくようになるか。そうした戦略の積み重ねで今がある。

こうした戦略と同時に、とにかく自分の好きなことをとことんやることも重要だ。彼女は現在も、VRに直接関係ないことでも気になるものがあれば取り組んでいるという。

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

最近は、着物や太鼓など日本の伝統文化に興味を持っている

このようなチャレンジ精神は、「好きなことを仕事にしたい」と考える人の一助となるだろう。自分の軸をひとつ持ったら、そこからはひたすらに突き進むことで道が開ける。VRという最先端技術を使ったアーティストである彼女が「今どき、精神論みたいなことになっちゃうけど」と言って、仕事の向き合い方について教えてくれた。

根性が大切だと思います。もし好きなことがいろいろあるなら、全部本気でやって自分を出し尽くす。昔は器用貧乏になるからよくなと言われましたが、今の時代は深堀りすればその人にしかできない強みになってくる」

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

人が求めるものを作り上げることが、仕事として成り立たせるために重要と語る

自分のプライドよりも、自分がやりたいことの実現のために真摯に取り組む。彼女の場合は、「人に楽しんでもらう」ということだった。VRという最先端技術を使うパフォーマーとしては、意外なほどに泥臭い哲学を教えていただいた。しかしこのひたむきさがあったからこそ、今日の彼女がいるのだろう。これからも技術の進化と共に、彼女の成功は続いていく。

VRアーティストの仕事について詳しく知るには職業ナビ!
 ▶︎「VRアーティスト」を詳しく見る

取材後記

一見すると、芝居やアイドル、ネットでの活動など、せきぐちさんの歩みはいろいろな道に枝分かれしているかのように見える。しかし彼女の人生をひとつひとつ振り返ると、そこには連続性がある。芝居で売れるためにファンが必要だから、アイドルをする。個人で活動できるようになるため、ネットで発信を続けて知名度を上げる。こうしたロジカルシンキングに基づく戦略があったからこそ、VRアーティストという誰も成し遂げてない職業を開拓することができたに違いない。

せきぐちあいみさんのご紹介

VRアーティストせきぐちあいみインタビュー

VRアーティスト/せきぐちあいみ
1987年、神奈川県相模原市出身。高校卒業後、芝居の道に進み、アイドル活動を始める。2016年3月よりVRアーティストとして活動を開始。クラウドファンディングで世界初のVRアート個展を企画したり、世界でライブパフォーマンスを行うなど、幅広く活躍している。

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