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笹谷 淳介

笹谷 淳介

鳥取県出身のフリーライター&エディター。ファッション誌の編集部を経て現在に至る。主にファッション・音楽・カルチャー系の紙媒体・ウェブメディアで活動中。音楽と古着がとにかく好きで休日は古着屋かレコード屋にいる可能性大。最近の趣味は町中華で美味しい炒飯を食べること。

2020年10月29日
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テーラー 山本美緒(リーバイス®マスターテーラー)/「服を作りたい」。一途な思いを持ち続けた職人が生み出す世界に1本だけのジーンズ。

職業インタビュー山本美緒/リーバイス・マスターテーラー

いまや、世界的なデニムメーカーとして名を馳せるリーバイス®。その歴史は長く、創業167年の老舗ブランドだ。マニアも多く存在し、ヴィンテージのものになると破れていても破格の値段で取り引きされるほどの人気がある。

そんなリーバイス®で自分だけのオリジナルデニムを作れることをご存知だろうか。それが、カウンセリングから縫製までのすべての作業を一手に請負うサービス『LOT No.1(ロットナンバーワン)』。世界の限られた店舗のみで行われている。最高レベルの技術者しか担当できないこのサービスに従事する女性が日本に存在する。

山本美緒さん、職業はテーラー。テーラーと言ってもスーツを仕立てるわけではなく、リーバイス®の既成のデニム製品を自由にカスタマイズし、ダメージ加工や刺繍を行う職人仕事。リーバイス®ではこの職業のことを「マスターテーラー」と表現している。今回はアジア人初のリーバイス®マスターテーラーとして日本で活躍する山本さんの現在に至るまでの軌跡を追いながら、マスターテーラーの仕事について探っていく。

祖母が作った洋服を着ていた、幼少時代

石川県金沢市に生まれた山本さんは、内気な性格で自宅で多くの時間を過ごす幼少時代を過ごした。とくにファッションに興味があるわけではなかったものの、服作りは身近な場所にあった。祖母が趣味で洋裁を行っていたからだ。この頃は祖母が作ってくれた洋服をよく着ていた。

「幼少期はまったくファッションに興味がなかったんですけど、目の前で作ってもらった服を着ているという感覚はありました。でも年齢を重ねていくにつれ手作りの服を着るのが恥ずかしくなってしまって……(笑)。当時の私にはありがたみがわからなかったんです。だから、祖母に洋裁について教えてもらうこともありませんでした」

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景1

祖母の作った洋服を着ていた、幼少期

山本さんがファッションに目覚めたのは中学時代。ファッション誌のなかに登場する服飾専門学生たちのさまざまな洋服が輝いて見えた。自分たちで作った洋服をオシャレに着こなす姿を目の当たりにした彼女は、漠然と服を作る仕事がしたいと思った。

「当時はいまよりも多くのファッション誌があって、そこに載っている専門学生が本当にカッコよく見えたんです。家族ははじめ私が専門学校に行くことには反対でしたが、最終的には認めてくれました。どうせ行くなら一番大きなところにしようと文化服装学院に進むことを決めて、高校卒業後に上京したんです」

スタートから挫折を経験した、専門学校時代

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景2

課題に追われ、挫折を経験した専門学生時代。

山本さんが進学した文化服装学院は、ファッションの知識がない人でも一度は名前を聞いたことがあるであろう服飾の専門学校である。卒業生にはコシノ姉妹や山本耀司をはじめとする現在もファッション業界の一線で活躍を続けるデザイナーはもちろん、清川あさみといった新進気鋭のアーティストを輩出している世界的に一目を置かれる有名校だ。

中学時代、雑誌を開いたときに感じたキラキラしたイメージを胸に進学した彼女を待ち受けていたのは、課題に追われる日々。思い描いていたイメージとは異なる現実がそこにはあった。

「いままで自分で購入した古着をリメイクするときも、雑誌を参考にしながらも自分の感覚でやっていたことが多かったんです。そこからいきなり東京に出てきたので知識も技術もありませんでした。そのため入学してからの日々はイメージしていたようなキラキラしたものではなく、とにかく課題に追われていました」

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景3

学生時代から使っている、ハサミ。何度も手入れをして使い続けている。

専門学校は課題が多い。なかでも服飾専門の課題はほかの専門学校と比較してもかなりの量がある。服を作る仕事に就くことが最終目的のため、毎日のようにミシンに向かうのが一般的だ。

忙しい日々を送るなかで、入学当時に感じていた「この学校を卒業すれば自分は一人前だ」という感情はすぐ潰えてしまった。

「専門学校の入学当初から挫折を経験しました。何をやっても人より飛び抜けてできることがないというか、周りとの差をすごく感じました。ただ、毎日は刺激的で。

先生から教えてもらいながら服を作る過程もそうですけど、服は人間が着るものなので実際に同じクラスの友人をモデルに立てたり、着る人のことを考えながら作っていくことを技術と一緒に学べたのは、すごく大きな学びになりました」

このときに着用する人のことを考えて作ることを経験したことは、マスターテーラーとして働く山本さんにとっていまも大きな財産になっている。

「服を作りたい」。もがき続けた社会人時代

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景4

服を作りたい気持ちだけで行動し続けたと話す、山本氏

いまでこそ、リーバイス®のマスターテーラーとして多くの顧客を抱える山本氏だが、ここまでたどり着くにはかなりの時間を要した。2年間の専門学校生活のなかで、自分が求める場所へ飛び出す自信がつかないまま卒業してしまったと話す。

「服を作る技術職に就きたい気持ちはあったんですが、自信はなくて……。最初はとにかく就職できればと普通の企業を何社か受けました。でも受かる気配もなく(笑)。そもそも服を作りたいと思っている気持ちのままで就活をしていたので、あまりピンとこないまま進めていたんです。

何社目かでもう就活は辞めようと思いました。先生や友人に相談したときに、『もっと広い目線で見てみたら』とアドバイスをもらったんです」

悩んだ末に求人誌で見つけたのが服の制作をメインに行うスタイリストアシスタントだった。すぐに応募し、働き始めた山本さんだったが、制作やアシスタント業務はやりがいを感じていたものの「自分は服を作りたい人間。スタイリストを本気で目指してない」と感じていた。

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景5

世界に1本だけのデニムはこの繊細な手先で作られる

そうした気持ちが日に日に大きくなり、退職を決断。次に入社したのは某ブランド古着買取の会社だった。

「そこの会社では約2年働きました。あらゆるブランドの服を扱う会社だからここで勉強しようと思ったのですが、本当にしつこいんですけど、結局行き着いたのは“服を作りたい”ってことでした(笑)。作りたいのにまた違うことをやっているなって思いました。

その時期に相談した専門学校の副担任の先生から『よく古着をリメイクして着てるけど、そういうブランドがあるから働いてみない?』と運よくお話をいただいたんです」

紹介されたのは、自社ブランドと並行して古着をリメイクして衣装を作る業種。スタイリストアシスタントの傍らで服を作るのではなく、ついに服作りだけに集中できる仕事を生業にした彼女。そこでの経験は今にも生きていると話す。

服を作ることで感じた、リーバイス®の魅力

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景6

LOT No.1の工房には、リーバイス®を体現する世界が広がる。

新たに就いた仕事では基本的に古着や軍モノなどを解体してドレスを制作したり女性ものの洋服を作ったりと、すでに着られなくなった服を新しく蘇らせる業務に携わった

そこで感じたのはファッションの奥深さと服作りの魅力。さらに、扱う古着のなかに必ずと言っていいほどリーバイス®のアイテムが紛れていることに気づき老若男女に愛されるリーバイス®というブランドの不思議な魅力に惹きつけられていった。

「リーバイス®についてはずっと不思議なブランドだなと感じていました。洋服でありながらカルチャーというか。洋服なのかもわからないみたいな。ずっと気になるブランドでした」

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景7

リーバイス®には不思議な魅力があると話す、山本氏

服を作る仕事を続けていくなかで自身もよく穿いていたジーンズがリーバイス®だった。その不思議な魅力に惹かれつつ山本氏が仕事を辞めて次にチャレンジしたのは、自分で作ったアクセサリーなどのアイテムを個人で販売する仕事だった。野外フェスなどに出店して販売していたという。

ほかでアルバイトをしながら趣味程度の規模で始めた個人事業だったが、ある日リーバイス®で働くきっかけとなる出会いがあった。

「個人でアクセサリーなどを作って売る生活を1年ほどしていると、私と同じように物づくりをしてる人とつながることも増えます。そんなときに出会ったのがリーバイス®で働いている方でした。

すぐにリーバイス®を紹介してもらったわけではなく、後に『リーバイス®のカスタマイズのコーナーが新宿店にあってテイラーを探しているよ。やりたい人がいるなら紹介するよ』と教えてもらいました」

この出会いによってにリーバイス®の入社試験を受けることになった山本さん。“マスターテーラー・山本美緒”が生まれたのは「服を作る」という一途な思いが巡り合わせた奇跡なのかもしれない

アジア人初、マスターテーラーとして仕事とは

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景8

実際に作業する山本氏

2013年、紆余曲折を経て現職であるリーバイス®で働くこととなった山本さんは、アジア初のマスターテーラーとして多くのデニムアイテムを扱っている。改めてマスターテーラーとはどんな仕事を行うのだろうか。テーラーといえば、スーツを仕立てる職人のことを指す言葉のように思えるが、彼女が扱うのはもちろんデニムだ。

「マスターテーラーの仕事は、世界の限られた店舗のみで行われる特別なサービスの『LOT No.1(ロットナンバーワン)』というオーダーメイドジーンズ作ることです。ですが、入社当時は日本ではまだ展開していないサービスでした。そのため最初はカスタマイズの部門を仕切る仕事に携わっていました。

しかし入社当時から私の目標にしていたゴールは『LOT No.1』を作ることだったんです。いずれは日本でも展開していきたいと思っていました。2019年に正式にスタートすることが決まったのですが、その研修がすごく大変で……(笑)。ロンドンから来たマスターテーラーに1か月間みっちりとデニムの作り方をいちから教わり、最後に完成したものを評価してもらうスパルタなものでした。この期間は専門時代を思い出しましたね。

ただここまでやっていても正直、いまだに私がマスターテーラーの実感はないんですよね。自分がずっと知っているブランドにまさか入社できるとは思ってもいなかったので。そういう気持ちを持ちながらいまもやってる感じではありますね」

山本さんはいまだに『LOT No.1』を生み出すマスターテーラーの仕事に携わるなかでリーバイス®の「洋服の一言では表せない魅力」を再発見したという。

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景9

アメリカの古着屋で売られていたビッグサイズのリーバイス®のジーンズ

「まず長い歴史を持つ強みがあります。リーバイス®はお客様の年齢、性別、経験でまったく見え方が変わるんです。本来の穿き方であるワークウェアとして愛用してくださる方もいれば、ヴィンテージをこよなく愛す方もいる。その多様性がすごく魅力なんです。

1番印象に残ってるご依頼があって、ボロボロに履きつぶしたジーンズを新品で再現するお客様からのご依頼を受けたことがあったんです。これは難しいご依頼で、自然にできた傷はすごくかっこいいけれどユーズド感までは再現できません。

そのためプレッシャーをかなり感じながら取り組みました。その結果、自分が刻んできた経験を呼び起すことができるとお客様がすごく喜んでくださったんです。そういう楽しみ方もリーバイス®はできるんだなと感じましたね」

現在、山本さんはカウセリングから完成、客に商品を渡すところまで一手に引き受けてオリジナルのデニムを作り続けている。この仕事の魅力は1〜10の作業を経験できること。贅沢な仕事内容は山本さんが仕事を楽しく続けている一翼を担っているようだ。

挫折を経験した、私が好きな仕事を続けてこれた理由

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景10

確実に人を喜ばせる仕事はこの仕事しかない

悩みながらも服作りへの思いを胸に一歩ずつ進んできた山本さんは、アジア人初のリーバイス®のマスターテーラーとして服作りに向かい続けている。彼女がここまで夢を諦めず一生懸命になれたのはなぜだろう。多くの人は夢半ばで諦めてしまうことも多い。しかし彼女には続けてこれた大きな理由があった。

「自分はいろいろなことが器用にできない人間だと年々わかるようになりました。だから、なんでもできない人は好きなことをやるしかないというところに辿り着いた。その気持ちにシフトしたから挫折も乗り越えられたのだと思います。

もともとポジティブな性格ではないんですけど、時間をかけてやってきたことは絶対に無駄にならないし、やってきたことにはすべて意味があると思っています。すべてに意味があるとこじつけるようにしてるんです(笑)」

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景11

デニムが並ぶ、アトリエ。ここから多くの人を喜ばせるデニムが生まれる

好きなことをするしかないという境地には並大抵の努力では辿り着けない。“服を作りたい”という強い気持ちで突き進んできた山本さんだからなし得る境地なのだろう。

「毎回オーダーしてくださる人がいて、作って、喜んでいただける。確実に誰かを喜ばせることができる仕事ってやろうとしてもなかなかできないと思うんです。服を作ることは大好きですが、そこが1番楽しいし、恵まれているところだと思います」

自分が今後やりたいことの目線で物事を見る

リーバイス・マスターテーラー山本美緒/インタビュー風景12

挫折したとしても経験は無駄にならない

最後に山本さんから今後を担う若者たちへのメッセージをいただいた。

「もちろん順風満帆に進んでいけたらいいのですが、途中で挫折することがあったとしてもアルバイトや仕事を通して出会った人からのヒントや教えてもらってきたことって、業種が変わっても生かせると思います。

たとえ挫折をしても、自分が今後やりたいことが明確になっていれば、その挫折も経験となって今後につながる。私は無駄だなと思うことでも自分の考え方次第でなくなると思っています。もし今やりたいことではないことに携わっていたとしても、一度私のように考えてみるといいかもしれませんね!」

好きなことに対して真っ直ぐに突き進む山本さんの言葉は、きっと若者の心にも響くはず。メッセージに含まれたアドバイスは、多くの出会いをきっかけにステップアップした彼女の生きざまを表している。

テーラーの仕事について詳しく知るには職業ナビ!
▶︎「テーラーの仕事」を詳しく見る

取材後記

この取材を受けるまで知らない職業だった、リーバイス®のマスターテーラーという仕事。今まで抱いていたテーラーという職人仕事のイメージをガラリと変える山本さんの柔らかい印象と手先の綺麗さ。この華奢で綺麗な手先から“人を確実に喜ばせるジーンズ”が作られているのかと思うと自分もオリジナルの1本を手に入れたいという感情になった。

ファッション好きもそうでない方もぜひ一度、店頭へ足を運び世界で1本だけのジーンズを作ってみてほしいと思う。貴重なお時間をありがとうございました。

山本美緒さんからのビデオメッセージ


@ジョイキャリア インタビューチャンネル

山本美緒さんのご紹介

インタビュー山本美緒/マスターテーラー(Levi’s所属)
山本美緒/Levi’s® 所属 マスターテーラー
石川県金沢市出身。文化服装学院を卒業後、アパレル業界に従事。2013年に現職である、リーバイス®に入社。入社後は、アジア初のマスターテーラーに抜擢され、既存のデニムのカスタマイズ、『LOT No.1(ロットナンバーワン)』の制作を行う。その確かな技術力から多くの顧客を抱える、敏腕マスターテーラーの1人。

Levi's®イメージ写真
リーバイス® 原宿 フラッグシップストアでは、 現在テイラーたちがデザインする限定のプリカスタマイズコレクション『Tailor’s Closet collection』を展開中です。

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鳥取県出身のフリーライター&エディター。ファッション誌の編集部を経て現在に至る。主にファッション・音楽・カルチャー系の紙媒体・ウェブメディアで活動中。音楽と古着がとにかく好きで休日は古着屋かレコード屋にいる可能性大。最近の趣味は町中華で美味しい炒飯を食べること。

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