
最近、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんのニュースや、SDGsのテーマを通じて「国連」について見聞きすることが増えています。国連の仕事に興味があり「国連職員」になりたくても、体系だった情報が少ないため、どうすればなれるのか分からない人も多いのではないでしょうか。
現在、国連の専門機関・国際移住機関(IOM)で働く友人に話を聞いてみました。
目次
国連の組織と国連職員の基本的な仕事内容とは

国連で働く職員は別名「国際公務員」と呼ばれる
まずは、国際連合(以下、国連)の概要をおさえておきましょう。
国連は、国連総会、安全保障理事会、などの6つの主要機関と世界保健機関(WHO)や世界貿易機関(WTO)など15の専門機関から成り立っています。
別名、「国際公務員」と呼ばれる国連職員は世界各地に点在する事務局や、発展途上国などの地域事務所でプロジェクトの企画、運営、管理などにあたるのが仕事です。
一国の利益のためだけではなく、世界中の利益のために「公」に勤める国際公務員にはこの後のインタビューからもうかがえるように、高い専門性が求められます。
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まるで企業と株主!? 国連と各国政府の関係

国連と各国政府は会社と株主のような関係にある
国連と各国政府は公式には、独立した立場にあるとされています。
しかし、国連の政策や活動には各国政府の立場が反映されるのが実情です。たとえるなら、会社と株主の関係に近いかもしれません。
国連の活動資金は、加盟国がそれぞれ分担して拠出していることから、国連の活動は多かれ少なかれ拠出国の意向を受けることになるためです。
なお、現在、日本の拠出金は加盟国中第3位。一方、職員数は世界で25位。
4万4000人の国連職員のうち日本人職員が占める割合は2%程度にとどまっています。
長年、日本は「お金を出しても人は出さない」と批判されてきました。
しかし、国際協調主義よりもアメリカのトランプ政権のように自国中心主義の風潮が高まるにつれて、平和や安定への志向が強い日本人職員への期待が増しています。
元IBM社員が語る国連職員へのキャリアチェンジと仕事の楽しさ

若年失業率の高いアフリカでは若者が仕事を求めて欧州に向かう
残念ながら、日本人の国連職員は少ないのが現状です。日本人が国連職員になるのは難しいのでしょうか。友人の赤尾邦和さん(以下、赤尾)に聞いてみました。
失業率の高さに悩む若者の仕事をつくる、IOMの仕事
筆者:早速ですが、いまはどこで、なんという国連機関で働いていますか。
赤尾:アフリカのシエラレオネという国で、国際移住機関(IOM)の専門職として働いています。日本人は僕だけです。
筆者:シエラレオネってアフリカの西の方にある国ですよね。マラリアとかは大丈夫でしょうか?
赤尾:マラリアは3回なりました。あれは1回なると免疫が落ちたときにまたなりますから。シエラレオネは、北海道くらいの面積で人口700万人ほどの国。地形的には長崎県みたいな場所です。
筆者:どんな活動をしているのですか?
赤尾:IOMというのは、簡単にいえば人の移動の問題を扱う国際機関です。
アフリカは若年層の失業率がものすごく高く、65〜70%くらいですかね。ほとんどの若い人に仕事がありません。
仕事がないと、みんな外に行こうと思うようになります。アフリカとヨーロッパは歴史的な結びつきが強いので、若い人は仕事を探してヨーロッパに行きます。
僕は、そういう仕事がなくて困っているアフリカの若者のために、日本政府からプロジェクト予算をもらって、アフリカの中で仕事を作るプロジェクトを回しているんです。職業訓練や起業支援など、2022年までのプロジェクトが走っています。
筆者:そのプロジェクトは、トップダウンなのでしょうか、現場主導なのでしょうか。
赤尾:どちらもあります。おもしろいのは、現場主導で企画立案して実行できるプロジェクト。PDCAを回している実感がありますから。
「途上国支援の仕事は外務省だけじゃない」と気がついた

キャリアチェンジで国際協力の道に進む方法もある
筆者:自分で決められる仕事の範囲が広いほうがおもしろいのは分かる気がします。ところで、たしか外務省を目指していたと思うのですが、IBMはいつまで在籍していたのですか?
赤尾:もう10年近く前のことですか。当時、僕はIBMのサバティカル休暇という制度を利用して公務員試験の勉強をしていました。給料が3割になる代わりに、社員の立場のまま自己研鑽できる制度のことです。
国家公務員試験は合格したけれど、官庁訪問では採用されませんでした。
筆者:前回会ったときはまだIBMにいましたよね。それからどうしたのですか。差し支えない範囲で教えてください。
赤尾:その後、専門職大学院のひとつである公共政策大学院に通ってみようかということに。
それから、外務省の3か月のインターンでPKO事務局に行き、自衛隊以外にPKOで働く人たちの存在を知りました。
そのとき、こういう方法もあるなと。経験のためにJICAの専門嘱託職員に応募したら合格しました。その後、国連のポストに応募していまに至ります。
国連職員の給料は月100万円。でも「有期契約」はめずらしくない

海外の就職活動は空いているポストに応募するのが一般的
筆者:これまでの話を聞いていると、学部卒・新卒で国際公務員になるのは難しそうな気がするのですが、実際どうなのでしょう。修士の学位は必要でしょうか?
赤尾:必ずしも修士が必要とは書いてないところも多いです。JICAには新卒も多数います。
でも、それに相当する経験や知識が求められるのは確かです。国連の場合、日本人でいきなり国連機関に行く人は少ないですが、ヨーロッパにはそういう人も一定数いる感じがあります。
筆者:給料はどうでしょう?
赤尾:日本円にすると手取り月額100万円弱です。
筆者:すごい。日本では30代でそれくらいもらっている人はなかなかいないと思います。年収1000万もらっている職業が話題になるくらいなので。
赤尾:そうかもしれないですね。けれど、それなりの額を出さないと世界中から人は集められません。
筆者:先に、2022年までのプロジェクトと言っていましたけれど、それが終わるとどうなるのでしょう?
赤尾:……就職活動?
筆者:……国連職員は常勤ではないのでしょうか!?
赤尾:国連職員は基本、本部も含めてみんな有期契約です。数年のポストならラッキーなくらい。空いているポストに応募するのが普通です。
国連職員には、自分の成長を楽しめる人が向いている
筆者:確かに海外はそれが普通といいますね。どんな人が国連職員に向いていると思いますか?
赤尾:常に自分をアップデートできる人。逆にいえば、自分を高めることに楽しさを感じられる人でないと厳しいと思います。
筆者:プロジェクトの企画立案や実行をするとなると、自分で課題設定できることも必要なのではないでしょうか?
赤尾:そうかもしれません。自分で企画した案件は、やっぱり責任を強く感じます。だから仕事にコミットするんです。
筆者:でも、有期契約であることはキツイと感じませんか?
赤尾:考え方次第だと思います。なぜなら、空いているポストに応募するってことはやりたいことが先にあるわけなので。やりたくない仕事はしなくていいということですから。
一方、大企業の仕事は安定しているかもしれませんが、組織の一員として断れない仕事もあります。
それはトレードオフなんだと思います。僕は仕事のおもしろさをとったわけですけれど。
組織によって全然違う? 国連の仕事と職種カテゴリー

国連職員の職種は画一的なものが存在しない
国連職員には、管理職(D)、専門職(P)、一般職(G)、ナショナルプロフェッショナルオフィサー(NO)の5つのポジションがあります。
国に関係なく専門性や仕事の内容で仕事を選ぶならDまたはP、ひとつの国でずっと働きたい場合はGまたはNOと考えることができるでしょう。
しかし、職種のカテゴリーは国連内部でも組織によって若干異なるそうです。
なお、赤尾さんの職種は専門職。最初は前職の経験を生かして、コンサルタントとして国連職員のキャリアをスタートさせました。
国連の仕事をするには? 国連職員になる方法

国連職員になるにはさまざまなルートがある
一般的に、日本人が国連職員には次の方法があるとされています。
・YPP試験(Young Professional Program)に応募する
・外務省のJPO派遣制度に応募する
一般的なのは「空席ポストに応募する」という方法です。
国籍や年齢制限が設けられていないため、公募ポストの条件を満たすことができれば、誰でも応募できます。
32歳以下の若手ビジネスパーソンなら「YPP試験に応募する」方法もあります。
しかし、これは日本人にとっては最も難易度が高いといわれる方法です。
外務省が主催するのは「JPO派遣制度」。
国際機関での日本人職員の採用促進のため、日本政府が国連に2年間職員を派遣し、その間に必要な知識や経験を積む機会を提供するねらいがあります。
国連職員になりたいなら経験者に聞くのが確実
赤尾さんによると上述した3つの方法以外にも、日本人が国連職員になるには多くの方法があるといいます。
外務省やJICA、そのほかのさまざまな機関が日本政府や国連と連携して多様な人材育成プログラムを提供していることを教えてもらいました。
各機関や制度のリンクは下記の職業ナビを参照してください。
一日の仕事や必要なスキル、年収を知るには職業ナビ!
▶︎「国連職員(国際公務員)」を詳しく見る
国連職員について調べたことがある人ならお分かりだと思いますが、日本人の国連職員が少ないせいか、国連職員に関する情報は豊富とはいえません。
チャンネルが多岐にわたっているため、情報が分散してしまっていることがわかりにくい要因です。
採用そのものを、国連本部が一括採用するシステムではないことも情報を得にくい原因のひとつでしょう。
もしあなたが国連職員を目指すなら、すでに国連機関に働く人または経験者に話を聞くのが最も確実かつ最短ルートといえます。
長期のキャリア形成に国連の仕事を視野に入れる

長期的なキャリアプランの中に国連の仕事を考えてみよう
「本気で国連で働きたいと思うなら、職に就くことは決して難しくない」と赤尾さんはいいます。
世界には日本のように「転職は35歳まで」という固定化された価値観もないそうです。
久しぶりに話をした赤尾さんの表情からは、いまの仕事にとてもやりがいを感じていることが伝わってきました。
有期契約であることには多少の不安を感じるとはいえ、あまり気にしていない様子です。
国際公務員には各分野の専門性のほか、一度その仕事についても常に自分をアップデートする姿勢と楽観的な性格の持ち主が向いているのかもしれません。
国際協力に関心を持ち、仕事を通して自分自身の成長を楽しめる人は、将来国連職員になることを視野に入れて長期的なキャリアを考えてみてはいかがでしょうか。
出典:「IOMとは」-国際移住機関(IOM)
取材協力:赤尾邦和さん International Organization for Migration, Project Manager
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