
新型コロナウイルス感染症やそれに伴う緊急事態宣言を背景とする失業問題が深刻化するなか、その一方で意外にも退職希望者が急増しています。理由はさまざまですが、俯瞰してみてみるとある一定の傾向があるようです。いま退職したいと考える人の動機は何なのでしょうか。またテレワーク下で退職したい場合はどういう点に気をつけるべきなのでしょうか。合わせてご紹介します。
目次
コロナ禍で退職者が増える背景

仕事環境の変化が退職のきっかけに
いま「仕事を手放したい」と考える人にはどのような悩みがあるのでしょうか。安定収入があるだけでも幸運といえる世情であるにもかかわらず、このタイミングで退職を考えざるを得ない背景には以下のようなものが挙げられます。
テレワークへの戸惑い
緊急事態宣言後、多くの企業が積極的にテレワークを導入しました。初めてテレワークを導入した組織のなかには業務体制やインフラ整備が追いつかず、業務に支障をきたしているケースが散見されます。
- オンラインコミュニケーションは、相手の気持ちが読み取れない
- 仕事をさぼっていると思われそうで不安になる
- 通勤者との間で不公平感が生じている
- 自分に対する評価基準が明確にならない
- 仕事を頼みにくい
- テレワークになり減給された
そのほか、通信環境やプリンターといったインフラが整えにくい、運動不足、仕事に集中しづらい、会話が少なく孤立感を感じるなど環境変化に伴うデメリットを感じ、会社にスポイルされているような疎外感にとらわれる人も増えているようです。
平常通りのパフォーマンスが出せない状態が続いた結果、「自分は会社に不必要なのでは」と不安を抱えてしまうのも無理はありません。テレワークが推奨され、感染リスクがほとんどない自宅での仕事が可能となった反面、これまでと大きく異なる環境によって別の不安が増幅してしまったジレンマを抱えている人は少なからずいるのです。
感染リスク回避

仕事より命が大切!
いま人が抱える不安の大きな要因に、感染リスクがあります。生活のためには働かなければなりませんが、それも命あってこそのものです。収入が途切れてしまうのは不安ではあるけれども、仕事が原因で感染するより自分の命が大切だと考え始める人は少なくありません。
とくに通勤を余儀なくされている場合には、通勤中の電車内や街の人混みに対して不安に感じるのは当然です。人が生きていくためのインフラに関わる職業は、どれほど感染リスクが高くても休職するのが難しく責任も重大です。しかし、地域全体の人々の生活を個人の精神力で守り抜くのは想像以上に大変なこと。「感染リスクを避ける目的で退職することが拙速だ」と非難することは誰にもできないでしょう。
コロナの影響で退職が増えた業種は?

精神的にも肉体的にも厳しい状況下に置かれる職種がある
緊急事態宣言で休業を要請された業種が被る損失は甚大です。経済的なダメージばかりではありません。医療従事者においては肉体的、精神的にも危機的状況が続いています。感染リスクが高い対面販売や人的サービスを基本とする業種、もともと大勢の人が集まるイベント運営関係会社も大変厳しい状況に陥っていますし、インバウンド客をターゲットにした業種のダメージも計り知れません。
退職者数が増加傾向にある職種
- 観光業(旅行業、ホテル・旅館業)
- 飲食業(外食チェーン店)
- イベント企画・運営関連業(企画、会場運営)
- 小売業(家電量販店、コンビニ、デパート)
- 医療関連業(病院、保健所、介護施設、薬局)
- 教育関連業(保育園、幼稚園、学習塾)
- 交通・運輸関連業(運送業、民間交通会社、タクシー)
観光業界は現在壊滅的な打撃を受けています。小さな会社は倒産を免れることができず、大手でもリストラが進んでいます。もともと業務内容に比べて給与が低く設定されているところもあり、この業種に見切りをつけた退職希望者は増えていると考えられています。飲食業も切迫した状況に加えて、接客における感染予防対策の煩雑さやクレーム対応の難しさが取りざたされています。
逆に多忙になったことで退職を考える人が増えている業界もあります。小売業や運送・運輸業では届け先の増加によりリスクが拡大傾向にあります。医療従事者においては、すでに限界を超えて業務を行っている病院や保健所が多いことに加え、院内感染やクラスター発生のリスクを抱えた状況にある精神的な負担から退職する医師や看護師も少なくないようです。
どうする?テレワーク中の退職願

退職にもルールがある。準備してきちんと対応しよう!
会社からテレワークの指示が出ている場合、これまでの環境とは異なるため会社を辞めるにあたり何から始めればいいのかわからないこともあるでしょう。ここからは、テレワーク環境で退職を希望する場合のスムーズな進め方をご紹介します。
まずは上司に電話相談する
テレワークの環境下で退職したい場合、会社に出向いての相談は現状だと難しいかもしれません。かといって、いきなり人事部にメールやチャットで退職願や退職届を送るといった禍根を残すような方法をとるべきではありません。
まずは直属の上司(上司がいない場合には、統括する人物)に電話で相談しましょう。
電話相談もいきなりかけるのではなく、事前にメールで(相談内容には触れずに)相手の都合を尋ねておきアポイントをとっておきましょう。
電話で話すときには、なるべく落ち着いて、退職を考えるに至った経緯と正直な気持ちを「相談」という形で話してみてください。また、愚痴をこぼすようなことにならないように気をつけましょう。退職が承認された後も対応は慎重に。相談直後に退職願や退職届をメールに添付して送るのはNGです。感情的にならないように極力注意しましょう。もし電話相談で折り合いがつかなかったら、日を改めたほうがいいかもしれません。
どんな場合でも、自分だけで結論を出そうとしないことが重要です。退職届を郵送してしまえばいいという考えは、社会人としてのマナーに反します。
注)★退職願:退職したい旨を伝える文書(退職したいと願い出る書類)
※退職が拒否される場合もあります。
★退職届:退職を通告する文書(退職を宣告・通知する書類)
上記のように、「退職願」と「退職届」では、意味合いが大きくことなります。
「退職願」を優先して使用する方が、退職まで穏やかに進めることができます。
退職日を決め、スムーズな業務引き継ぎに務める

引き継ぎのためにしっかり時間を取ろう
退職が決まっても、退職が認められた日を退職日と自己判断して自分勝手にさっさと業務を終了してしまってはいけません。組織で働いていた以上は、後継者に引き継ぎするまでの責任があります。
退職の相談から業務の引継ぎまで必要なことをチェックリストにしてまとめておくことをおすすめします。
例:
〇退職日を決める
〇退職願(退職届)を作成
〇退職日までに会社に返納する機材、書類などの確認と準備
退職日は、上司や担当者とよく相談して決めましょう。退職願(退職届)に記入する日が書面上の退職日であったとしても、業務の引継ぎが完了するまでは実質的な退職とはなりません。
本当にいま退職すべき?

振り返れば、働いていて幸せだったときもあったのでは?
「仕事を辞めたい」
それは組織で働いていれば誰もが一度は考えることです。いまは複合的な問題を抱えてネガティブになりがちな時期ですが、平常時に戻れば何に悩んでいたかケロッと忘れて仕事に没頭する日々が始まる可能性だってあります。
本当にいま辞めていいのですか? 上司に相談する前に冷静になって考えてみましょう。
求人情報に惑わされない
退職が揺るがない気持ちだとしても、その後どうするかをよく考えておくべきです。行き当たりばったりで「とにかく辞めたいから辞める」では、一層困った状態になることは必至です。
「増えている求人もあるから生活は大丈夫」と思っている人はもっと要注意です。
たしかにコロナ影響下でも求人を増やす企業があります。Webを活用したネットワーク産業はそのひとつといえるでしょう。ですが、これらの業種は転職をしてまで自分にとって魅力があるのでしょうか。パンデミックが収束したあとも伸び続ける業種かどうかという点も、よく研究しておく必要があります。
何度も転職を繰り返さないためにも、ここはテレワークを良い機会にして、自分自身が今後どうしたいのかをじっくり考えてみてください。
会社に迷惑かどうかは関係ない
企業とは、利益を生み出すことが前提にあります。誰かが急な退職を申し出ても、倒産するほど軟弱ではありません。たとえ一人が欠けたところで、必要な業務に支障があればすぐに人員が補填されるだけです。効率などは一時的に低下するかもしれませんが、大きな問題にはなりません。従業員一人ひとりが、会社にとって大切な存在であったとしてもです。
そのため会社への迷惑を理由に退職を諦める必要はありません。ですが、辞めることであなた自身が被るデメリットについてはきちんと考えておきましょう。人間関係、社会的保障をはじめ退職によって失うものはとても多いのです。賃貸契約の審査は勤め先がしっかりしていないと通りません。このご時世に新たな社員を採用する企業も少ないです。
一時的な気の迷いで、その後の人生が大きく変わってしまう可能性があります。そのことを忘れないようにしましょう。
感情で決めない。退職はロジカルに遂行する

ボーナスをもらってから改めて考えても良いのでは?
社会人である以上、年相応のしたたかさを持ってみましょう。どうすればより得をするのか、得になるタイミングはいつなのか見計らうくらいの算段は立てるようにしてください。
これはお金の話に限った話ではありません。すべての物事を客観視するためのプロセスなのです。勢いや焦燥感だけで行動するのは、良い結果につながりにくいもの。感情論から一旦逃れて合理的な視点を持つことが大切です。退職する気持ちが固まっていても、ボーナスを考慮して時期を選択するくらいの気持ちの余裕を持ちましょう。
いろいろな物事をロジカルに考えるようにすると、不安の根本にあった原因がわかり、気持ちが落ち着いてくることがあります。いますぐ退職すべきか、急ぐ必要がないのか、個人の損得でしっかり判断してください。
まとめ:テレワーク中に明るい未来を描く時間を持とう

前向きな姿勢を保つために、頭を冷やして深呼吸。リフレッシュが大切です
社会全体がいま不安で満ちあふれています。不安は人を極端に保守的にしたり、攻撃的にしたりもするものです。社会システムのほころびがあちこちで見え隠れし、私たちの不安は増長するばかりです。
精神的に不安定な状態であれこれ考えても、解決策は見いだしづらいでしょう。パンデミック、経済、健康、仕事……あげればキリがないほどの悩みを全世界が抱えているのです。
ひとつの選択肢として「退職」はあなたの手中にあります。しかし、それはあくまで前進するための手段であり最後の切り札としてください。不安から逃げるためだけに安易に切るカードではありません。
あらゆる業界で生き残りをかけた新しい挑戦が始まっています。これまでの歴史がそうであったようにパンデミックの後、世界の様相は良くも悪しくも大きく様変わりする可能性があります。その端境期に自分のためにどういうアクションを取るべきなのか、合理的に判断してください。
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