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ポメラニアン高橋

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2019年5月24日

EUも廃止の方向へ。日本のサマータイム導入って結局どうなった?

2020年東京オリンピック・パラリンピックの暑さ対策として、サマータイムの導入が検討されたのは昨年8月のことだ。しかしそれ以降、サマータイムの“サ”の字も報道されず、結局どうなったのか知らない人は多いだろう。

そこで今回は、サマータイムの基礎知識や導入するメリット・デメリット、またそれが日本のビジネスパーソンに与える影響について解説する。

オリンピックに合わせて日本でも導入?サマータイムってどんな制度?

欧米圏に定着しているサマータイム制度

サマータイムとは、日照時間が延びる夏場に限って「生活時間を1時間程度早める制度」のこと。

例えば、9:00出社・18:00退社の企業で働いているならば、8:00出社・17:00退社のように就業時間が変わる。要は“夏場の長い日照時間を有効活用しよう”という制度であり、高緯度地方のヨーロッパを中心に実施されるようになった

今現在サマータイムは、欧米諸国を中心に広く導入されている。日本も名を連ねるOECD(経済協力開発機構)の加盟国のおいて、35カ国中31カ国がサマータイムを実施。逆に実施していない日本・韓国・トルコなどの国々は、加盟国における少数派となっている。

そんなサマータイムの導入を提案したのは、東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会会長である森喜朗氏だ。同氏は昨年8月、抜本的な暑さ対策を目的とするサマータイムの導入を政府に提案。一部の競技日程の時間をずらすことにより、日本特有の酷暑から選手や観客を守る狙いがあった。

理にかなった提案……と思える一方、サマータイムの導入は政府与党内、また関係機関や有識者から反発があった。この点は詳しく後述するものの、ITシステムの改修をはじめ、国民の日常生活に多大な影響を与えると指摘。その結果は、NHKが昨年9月に行った「政治意識月例調査」に数字として表れた。

サマータイム導入の議論が始まったのは昨年8月。この段階における「政治意識月例調査(8月)」では、サマータイム導入に賛成なのが51.1%、反対が11.6%、どちらとも言えないと答えた人が28.6%となった。そして議論が進んだ9月、同調査の同じ質問における回答結果は、賛成が26.8%、反対が43.1%、どちらとも言えないが21.6%に。たった1ヶ月で、賛成派と反対派の数字が大きく逆転した。

最終的には、東京オリンピック・パラリンピックにおけるサマータイムの導入は、見送りとなった。だが、完全に導入案が消失したわけではない。サマータイムはもともと、暑さ対策ではなく、省エネルギー対策や低炭素社会実現を目的とした制度だ。今回は見送りとなったが、日本にサマータイムが導入される日は、いずれ来るかもしれない。

サマータイムを導入するメリットとデメリット

サマータイム導入で朝活を実現?

そもそもなぜ、多くの関係機関や有識者がサマータイム導入に反発したのか。それは、サマータイム導入のメリットとデメリットを鑑みれば良くわかる。さっそくメリットから触れていこう。

■サマータイム導入のメリット

アフター5が充実する?

サマータイムを導入するメリットは大きく分けて3つ、「時間の有効活用」と「経済の活性化」、そして「余暇の充実」だ。夏場は早朝5:00前には日が昇り、日によっては19:00近くまでその明るさが続く。比較的気温の低い早朝から仕事をはじめ、早めに終ればアフター5が楽しめるわけだ。

それによってレジャー・娯楽・外食の機会が増え、消費喚起に繋がる。第一生命経済研究所が公表した「不確実性の高いサマータイム効果」によると、サマータイムにおける経済効果は約7,352億円に昇るとのことだ。

また、サマータイム対応の時計や家電が飛ぶように売れ、それに合わせたビジネス展開も考えられるなど、相応の経済効果が期待出来る。であるにも関わらず二の足を踏むのは、メリット以上にデメリットが大きいからだ。

■サマータイム導入のデメリット

見過ごせない多大なデメリット

まず挙げられるのが、ITシステムの時間対応。サマータイムを導入するとなれば、年に2回ほど、あらゆる業界で全システムの見直しが必要となる。時間対応といっても、目覚まし時計の裏側を調整するだけのような、簡単な話ではない。ITエンジニアの動員が必要となるほか、そのコストも企業や個人が負担することとなる。システム規模によっては、甚大なコストを掛ける必要も出てくるだろう

時間対応の影響は大きく、鉄道・バス・飛行機などのダイヤも変更させざるを得ない。さらに厄介なのが、これらの変更が期間限定であることだ。ダイヤスイッチ時に混乱が生じるのはいうまでもないだろう。

サマータイム導入による健康被害も懸念されている。日本学術会議が公表した「サマータイム導入の問題点:健康科学からの警鐘」によると、サマータイムの開始・終了直後は、私達人間の生物時計(体内時計)の機能が損なわれるとのことだ。

自律神経などが1週間から数週間にわたって乱れ、精神疾患の発症・悪化や交通事故、不登校の増加が懸念される。また心臓病予備軍の人にとって、睡眠時間の変動は大きな負担となる。

実際、これまでサマータイム制度を導入していたロシアでは、切り替え時期に限って心筋梗塞による死亡者が増加。救急車の出動回数も増えたという。まるで都市伝説のようにも聞こえる話だが、ロシアはこの事象を受け、2013年3月以降にサマータイム制度を廃止した。

ビジネスパーソンに与えるサマータイムの影響

仕事のパフォーマンス低下も

「サマータイムが導入されれば、もっと早く帰ることが出来る!」と考えるビジネスパーソンもいるだろう。しかし、逆に「残業量の増加」も懸念される。1時間〜2時間早く出社したところで、帰宅時間が早まるとは限らない。企業によっては、長時間労働を助長する要因と成りかねない

それは日本の歴史にも裏付けされる。敗戦直後の1948年、実は日本でもサマータイム制度が導入されていた。GHQによる指示の元、日本人がアメリカ文化を習うべく導入されたのだ。当時の電力不足解消を目指すべく導入された制度だが、国民の反発により、わずか4年で廃止された

背景にあったのは、国民の労働条件・環境の悪化だった。いつもより1時間早く始業するのに対し、就業時間は変わらないケースが多かったそうだ。当時の実態を鑑みるに、たとえ時代が変わっても、長時間労働問題の一翼を担うのは想像がつくだろう。現在日本政府が進めている、働き方改革に逆行する恐れさえある。

また、先述した健康被害も問題だ。2004年から2006年にかけて、札幌商工会議所が模擬サマータイムを導入したことがある。参加者のアンケート結果によると、従業員の20%から40%が睡眠不足や体調不良を訴えた。その健康被害の総額は、1,350億円/年と試算されている。残念ながら、サマータイム導入によってビジネスパーソンが得られる恩恵は、あまり多くなさそうだ。

【2021年】EUのサマータイムは廃止へ

世界的に見られる廃止の動き

2019年3月、EUの欧州議会は、2021年を目処にサマータイム制度を廃止する法案を可決した。もともと欧州委員会が現地で行った調査では、回答者の8割以上が「健康への悪影響」や「交通事故の増加」を理由に、制度に反対していたそうだ。

この動きが日本に与える影響はただ1つ。今後の日本国内において、サマータイムが実施される可能性が減ったことだ。あくまでも“減った”だけで、ゼロではないが……過去の事例から、今以上に導入しにくくなるのは確かだろう。なお、今年に入ってからは米国国内においても、脱・サマータイムの動きが活発化しているという。

まとめ

東京オリンピック・パラリンピックでの暑さ対策として、当時浮上したサマータイム制度の導入案。

今から半年ほど前の出来事だが、結局のところ導入は見送りとなった。また海外の動きもあり、この先日本で導入される可能性は極めて低いだろう。

一方で、サマータイムには省エネルギー対策や炭素社会実現など、同制度ならではのメリットも存在する。もし誰もが納得できる理由や、問題の解決策が整ったとしたら、再び導入を一考することになるのかもしれない。

今後も世界と日本の動向に注目していこう。

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