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トイアンナ

トイアンナ

慶應義塾大学卒。P&Gジャパン、LVMHグループでマーケティングを担当。独立後は主にキャリアや恋愛について執筆しつつマーケターとしても活動。新著『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』が2万部を突破。 ブログ:「トイアンナのぐだぐだ」 http://toianna.hatenablog.com/ Twitter: https://twitter.com/10anj10

2019年10月30日

海外で働けば変われるはずと信じ…アフリカに飛び1週間で帰国するまで(後編)【キャリアの傷痕】第3回

トイアンナさんによる連載「キャリアの傷痕」第3回。この連載では「キャリアに傷がない人間なんていない。でもそこから得る“ジョイ”があるはず」という観点で分析・取材を進めていきます。

第2回に引き続き、第3回は、会社を辞めて海外に旅立った高梨翔さんに聞いたお話です。

これは、真面目で優秀な男性が自分を変えたいとアフリカで就労するために単身飛び、1週間で挫折し、復帰するまでの”キャリアの傷痕”を探る物語。前編はこちら

――高梨さんの想像するケニアと、実際に降り立ったケニアは違いましたか。

高梨翔さん(以下、高梨):ええ。もともと、ケニアのナイロビは都会だと期待していたんですね。アフリカは「次の中国」などと称されていて、その中でも東アフリカ、特にケニアはアフリカでも期待の星と言われていますから。

しかし、空港付近はまだまだ全然発展していなくて、普通の途上国でした。

そのときは、会社の人が住んでいる家にルームシェアする予定で。空港からの道中は不安でいっぱいでしたね。「ガチ途上国だけど、自分は適応できるかな」と。

――そこから勤務が始まったんですね。

高梨:ええ、初日の出社からすごかったです。会社は野菜の取引をしていて、オフィスが事務所兼倉庫だったんですね。倉庫には野菜が何十トンも積まれていて、全体的に埃っぽいのとハエがすごい飛んでて。

トイレには便座がないし。「やべえな、超すげえとこ来たな」と……(笑)。これは日本の最低水準を下回ってきたな、って。

でも、途上国のバックパッカーの経験も何度かあったのでじきに環境にも慣れるだろうとも思いました。ケニアの方は陽気で、スタッフとも話しやすい。期待も3割、不安7割くらいでしたね。

日本語で自宅作業が続き……退職を決意

ケニアに来たものの孤独な自宅作業

ケニアに来たものの孤独な自宅作業

高梨:ただ、ちょっと倉庫での野菜盗難事件があって、まだ働くためのビザを持ってない自分は警察に突っつかれないように自宅作業を命じられて。

そして担当業務が、日本人をケニアに誘致するプログラムで。つまり、ケニアに来たのに日本語で、日本人向けの業務を、自宅で誰とも話さずにやることとなったわけです。

――それは確かに、想像していた海外就労とは違いますよね。

高梨:「俺、ただケニアのナイロビにいるだけやんけ」ってなったんですね。少なくとも3~4カ月は、日本人のケニア誘致プログラムを回すことが決まってしまって。

1年海外にいる予定だったのに、1/3は日本人と日本語を話しているだけで終わってしまう。これじゃあ意味がないと。

渡航前、フィリピンの語学学校にいたとき、スティーブ・ジョブズのスピーチを教材にして毎朝見ながら音読やシャドーイングをしていたんですね。ジョブズが「今日が人生の最後の日だとしたら、どう生きるか」って話しているのを、延々聞いていたわけです。

それがケニアに来てからじわじわ効いてきて。

「俺、ケニアで何やってるんだろう。英語さえ使ってないぞ。今日が人生最後の日だったら、俺こんなこと全然やりたくない」と思うようになったんです。

担当した日本人誘致プログラムも力が入らなくて、パフォーマンスも低かった。

そこで社長とのコミュニケーションでも「翔さん、これで本当に集客できると思ってる? 確信がある?」って聞かれた時に「できます」と言えない自分がいたり……。

仕事も中途半端になりうまく回ってませんでした。

与えられた仕事はちゃんとやらなきゃという気持ちもありつつも、「なんでケニアまで来て日本語を使って、日本人向けのプログラムを作って、しかも詰められてるんだ俺は……」という気持ちが同時にずっとありました。

そして1週目の週末に社長から呼び出されて「翔さん、なんか仕事に全然集中できてないですね。何かあるなら教えてください」って言われたので、そこで「正直全然やりたくないです」って話をして、そこで辞めることが決定しました。

ただ、サクッと辞めたように聞こえますがものすごい葛藤がありましたね。1年間働く気で来て、半年前から準備してきましたし、周りにも1年間アフリカのスタートアップで働いてくるぜ!って言いまくってました。

何より自分で決断して、覚悟して来たので。そんな簡単に辞めていいんだろうか、もっと頑張らなきゃいけないんじゃないか?っていう自問自答がずっとあって、悔しさと情けなさとやりたくなさがごっちゃになって夜に一人でベッドで泣いたりしてました。

「勇気ある」帰国と決断

帰国を決めた後も、周囲に支えられた

帰国を決めた後も、周囲に支えられた

――帰国を決断してから、社長はいかがでしたか?

高梨:とても親切に対応してくれました。そして「ナイロビにいる他の社長を紹介するから、この会社が合わないのか、ナイロビが合わないのか考えてみるといいですよ」とまで言ってくれました。

それで数名の社長と面談させていただいてやっぱり帰国することに決めました。

自分はただ「何者かになりたくて」、すごいと言われる場所で働いてみたかっただけでした。「日本であえて不動産ベンチャーへ就職し、そこからアフリカのスタートアップで働いた希少性のある人材」になりたかった。

極論言えば、周りから優秀だと思われる人になりたいだけだったんです。

今回、ケニアと大きく振り切った場所へ渡航したからこそ、それに1週間で気づけました。

けれどもし当初の予定通りオーストラリアやカナダへ渡航していたら、それなりに生活して働いて、そのあとやっぱり「もっとすごいと思われる人材になりたい」と自分にとって的外れな挑戦をして、そしてやっぱりどこかでくじけていたでしょう。

ですから僕は、早めに気づけて本当に良かったなと思っています。これだけでケニアに1週間往復してきた価値があります。

「自分は逃げたんじゃないか?」という闇を抜けて

メンターのおかげで「撤退は誤りじゃなかった」と気づく

メンターのおかげで「撤退は誤りじゃなかった」と気づく

――帰国してから、自分を責めることはありましたか?

高梨:ええ。どこかで「逃げたんじゃないか?」って思いが頭の中にあって。自信を失い、危うく長くて暗い思考の闇に入ってしまうところでした。

けれどそのときも人生のメンター的な先輩が話を聞いてくれて。それで「この撤退は誤りじゃなかった」と自分を取り戻すことができました。

――帰国から数カ月経過しましたが、今は何をしていらっしゃいますか。

高梨:あれからしばらく無職でしたが(笑)。今は、いろいろやっています。

ざっと並べただけでも「築50年の一棟ビルの再生事業」「メンタルコーチ」「食事に関するブランドの立ち上げ準備」「ホテルのオペレーションコンサル」と……過去にいろいろな経験があったので、それを活かしていろいろやってみようと。

――ありがとうございます。最後に、高梨さんが今回「キャリアの傷」から回復した要素って、何だったと思いますか。

信じて背中を押してくれる家族や仲間、師が必要

信じて背中を押してくれる家族や仲間、師が必要

高梨:「自分を信じること」と「信じてくれる人が近くにいたこと」です。人生って、選択をすることそのものが大事なんですよ。

結果、短期的には「失敗」になってもいい。自分で選択した人生を「正解」にしていくのは自分なんで。

大事なのは自分の人生の操縦席に座り、自分で選択して、それを正解にする覚悟。そういう意味で、僕は「正解にする覚悟」を持って撤退を選択したんです。

ただ、人って弱いんでいつも一人で大きな決断や覚悟できるわけではない。だから信じて背中を押してくれる家族や仲間、師が必要だと思っています。

言うなればみんな合わせて「チーム高梨」で、今回の件はそのチームが信じてくれたから、覚悟ができたとも言えます。

高梨さんは、とてつもなくオープンだ。1週間で帰国した挫折体験をオープンに話してくれる。

しかも、そこには嘘がない。高梨さんがありのままでいられる理由は、最後は自分で決断を下す勇気にあるのだろう。

海外就労から1週間で帰国した人をあざ笑うのは簡単だ。けれど、高梨さんのように1週間で撤退する勇気を出せる人間がどれほどいるだろうか。

そして、いざ自分が期待と外れた場所へ行ってしまったとき、同じように逃げ出せるだろうか。不満ばかり言って、改善しない人間になってしまうのではないか。

そう思うと、高梨さんの決断に対する覚悟こそ、将来キャリアで幸せを勝ち取る人のあり方に思えてならない。

前編はこちら

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