この記事を書いたライター

伊藤祐介

伊藤祐介

「世の中に届ける情報は自分の目と耳で確かめたものだけ』をモットーに、取材と撮影をベースにした執筆を続けています。サラリーマン経験が長く、ビジネス系のコンテンツ制作が主戦場。それでも最近はグルメ本の制作、動画制作など幅を広げています。

2019年12月27日

社員を個人事業主にする!? 「タニタの働き方革命」に学ぶ会社に縛られない働き方

株式会社タニタの3名(打越・久保・二瓶)

働き⽅改⾰の⼀環として、「⾃由度の⾼い働き⽅」を推進する制度が増えている。たとえば、リモートワークや時短勤務、副業を認める制度などが代表的だ。そうしたなか、会社員という枠組みすら取っ払おうとしている企業がある。「日本活性化プロジェクト」として、社員の個⼈事業主化(フリーランス化)を推し進めている株式会社タニタだ。このユニークな仕組みについてタニタで働く3名にその実態とインタビューをし、メリット・デメリットの両面を考えてみる。

いま「⾃由度の⾼い働き⽅」が、なぜ求められているのか

人手不足は、日本社会の大きな課題の一つになっている

少子高齢化で働き手不足が深刻な日本では、政府が「一億総活躍社会」の実現に向け、いままでにないフレキシブルな働き方を推進している。2014年にホリエモンは「ひとつの仕事じゃなくて複数の仕事を掛け持ちして時間分割して、という働き方が当たり前になる」とフリーランス時代の到来に言及している。2019年5月にトヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言したことは記憶に新しい。

企業は、終身雇用の安定を保障しない代わりに、自由度の高い働き方を認めようと動き出だした。こうした時代の流れに呼応するように、最近は働き手の意識が少しずつ変わっている。

最も⾃由度の⾼い働き⽅は、フリーランス

働き方の自由度の高い個人事業主だが、メリット・デメリットはもちろんある

働き手にとって、「⾃由度の⾼い働き⽅」が広く認められるということは、それだけ選択の枠が広がるということ。結婚して子どもが生まれた直後なら、リモートワークで仕事を続けられたら嬉しいだろう。子どもがある程度大きくなったら、時短勤務で子育てと仕事を両立させることもできる。

最近は、副業を認める企業も増えてきたようで、社員は小遣い稼ぎができる。さらには、会社を辞めて自分の力で勝負する働き方もある。それを実践している人達が、働く時間・場所・相⼿を⾃由に選ぶことのできる個⼈事業主だ。フリーランスとも呼ぶ。

そもそも会社員とフリーランスのメリット・デメリットは何だろうか。

よく言われることは、会社員は収入が安定しているけどフリーランスは不安定。実力がなければフリーランスは務まらない。自分の力で仕事をとってこれる人だけがフリーランスの恩恵を受けられ、時間・場所・相手を選ぶ⾃由が手に入る。

タニタの新しい働き方「日本活性化プロジェクト」について

3年間の仕事を保障される形でフリーランスとして働ける

社員にのれん分けやフランチャイズ出店を推奨するなど、従業員の独立を応援する企業もある。求人広告に「独⽴⽀援制度あり」と書いてある会社がそれだ。たとえば、株式会社リクルートキャリアの独立支援体制はよく知られている。IT企業のVASDAQグループは、これまでに社員の独立を70件以上も成功させている。

今回、取材したタニタが2017年にスタートさせた仕組み「日本活性化プロジェクト」は、従来の独立支援制度とはまったく異なる。

タニタの「日本活性化プロジェクト」は、フリーランスになりたい社員がタニタを退職し、会社と業務委託契約を結ぶことで、主体性を発揮して働き方を自分でコントロールしながら、引き続きタニタの仕事を行う仕組み。フリーランスへの移行初年の業務委託契約は、前年の業務と残業代を含む給与や賞与、それ以外に会社が負担していた社会保険料などを基に報酬を算定して、複数年契約で1年ごとに更新する。
(詳細は『タニタの働き方革命』⦅日本経済新聞出版社刊⦆を参照)

フリーランスになりたい社員と会社が業務委託契約を結び、3年間は仕事を保障される約束なので、元社員はその期間における収入面の心配がいらない。会社から収入を得ながら、ほかの会社の仕事をしてもいい。

フリーランスになる社員にとって心配なことは、3年が経過した後も会社が契約を続けてくれるかどうかだ。契約終了時に新たな仕事を手にしていなければ、失業することになる。

そうした不安もあるなか、2017年にスタートした「日本活性化プロジェクト」には、8名の社員が手を挙げたそうだ。いま、それから3年が経とうとしている。プロジェクトに参加してフリーランスになった社員はどのように働いているのだろうか。後悔はしていないのだろうか。

「日本活性化プロジェクト」の実態

タニタの主力商品(計測機器)

タニタの主力商品、「計測機器」

インタビューに参加いただいたのは3名。経営本部社長補佐の二瓶琢史氏は、何を隠そう、タニタの日本活性化プロジェクトを社長と二人三脚で作りあげ、現在その運営を担う人だ。2017年の開始当時からご自身もフリーランスとなり、経営本部社長補佐としてタニタで活躍している。

新卒でタニタに入社したブランド統合本部新事業企画推進部の久保彬子氏は、10年ほど国内営業部でネット通販や家電量販店向けの営業を担当。日本活性化プロジェクトの第一期生として今でもタニタの最前線で活躍中だ。

営業戦略本部ライフソリューション営業部部長の打越亘氏は、自身の部下が日本活性化プロジェクトに手を挙げた経験を持ち、具体的な仕事を発注する立場からプロジェクトのメリット・デメリットを見てきた。

二瓶琢史/株式会社タニタ(社長補佐)

いろいろな角度からプロジェクトについて説明してくださる二瓶氏

二瓶氏によると、日本活性化プロジェクトは「制度」というよりは「仕組み」であるという。画一的な制度では主体性を持って働く「個人」と会社の間で一人ひとりに適応した契約を結んでいるからだ。

初年の2017年に8名の社員がフリーランスになり、2018年は7名、2019年は8名と続いている。2020年もすでに数名の社員が名乗りを上げ、会社と最終調整しているそうだ。

社内ではこの仕組みが一定の支持を集めていることが伺える。ここからは、第一期生の久保氏にも加わっていただき話を伺った。

久保彬子/株式会社タニタ(ブランド統合本部 新事業企画推進部)

独立後に担当した業務の成功体験を語る久保氏

ーー久保さんは仕組みを利用した第一期生です。どんな思いがあって手を挙げましたか。

久保:以前から、定年に縛られないで仕事をしたいと考えていました。定年してから新しい仕事を取ることができるのかと考えたとき、今のままでは難しいだろうなと思いました。それなら、いまから自分の名前で仕事ができるようにしておきたいと考えるようになり、プロジェクトに参加しました。

ーー不安はありませんでしたか。

久保:この「日本活性化プロジェクト」の仕組みでは、会社から放り出されるわけではありませんから、不安はありません。タニタとの3年契約があり大きな収入の柱はあります。この仕組みを利用することで、タニタ以外の仕事や自己投資をして勉強するなど、自分のやりたいことにチャレンジできると前向きに考えていました。

ーーもし日本活性化プロジェクトがなかった場合、久保さんはいまでも社員として働いていると思いますか。

久保:もしかしたら、転職を考えていたかもしれません。ちょうどその頃、社外の身近な先輩がパラレルに仕事している話を聞いて、私自身もキャリアを見直していた時期でした。もちろん、私はタニタが好きなので、残りたいという気持ちもありました。

二瓶:それは会社の狙いでもありました。経営の業績が悪化すると優秀な社員が辞めてしまう傾向があり、それに歯止めをかけたかった。久保の話を聞いていると、プロジェクトのおかげで優秀な人材が他社へ行かずに残ってくれたという事ですから、とても嬉しいですね。

ーーフリーランスになって3年が経ちますよね。現在はどんな仕事をしていますか。

久保:新商品の企画から営業まで幅広く担当しています。一般的なタニタ商品を買わない層にアプローチするため、クラウドファンディングを活用した新しいモノづくりにも挑戦しています。

ーータニタと外部の仕事では、どちらの比重が大きいですか。

久保:1年目は外部の仕事もしていましたが、2、3年目はタニタの仕事が忙しくなり、現時点ではタニタの仕事一本です。

タニタ食堂のみそ汁

タニタでは、健康計測機器の製造のほかに食品の監修なども手がけている

ーーほかの仕事を増やしてみるなど、将来のビジョンはありますか。

久保:ゆくゆくは自分の会社を作りたいと考えています。やりたいことはたくさんありますが、そのひとつはコーチングです。もともと学校の先生になりたかったくらいで、その人の可能性を引き出す仕事に携わりたいです。

二瓶:それは初めて聞く話だね(笑)。

久保:初めて言いました(笑)。

ーー将来の仕事にはタニタの経験が生かされそうですか。

久保:はい。これからの時代はフリーランスの道を選ぶ人が増えていくと思います。その人達に対して、私自身の経験をふまえたサポートができたらいいなと考えています。

ーーフリーランスになったご自身に対して、成長した、変わったと感じることはありますか。

久保:この3年間は、自分に何ができるのかを考える時間でした。その結果、将来ビジョンのひとつとして新たにコーチングの仕事がしたいという気持ちが芽生えました。仕事に対する姿勢も変わったと思います。

フリーランスになると、座っていて仕事があるわけではありません。だからこそ「頑張らなきゃ」と無理もします。フリーランスは社員と違い、勤怠の管理もされなければ、早く帰れと言ってくれる上司もいません。結果、オーバーワークになり体調を崩したこともあります。でも、仕事の内容も、働く量も自分で決められるフリーランスという働き方には満足しています。

ーー社員時代を振り返り、「こうしておけばよかった」など、後悔していることはありますか。

久保:もっとジョブローテーションして、いろいろな仕事を経験しておきたかったです。フリーランスになると、自分の武器で戦っていかなければなりません。社員時代にもっと武器を増やしておけばよかったと少し後悔があります。

二瓶:仕事の経験を積めるという視点で考えれば、社員もフリーランスも同じじゃないかな。いまの久保さんは、必ずしもやりたい仕事だけをしているわけじゃないでしょう。突然振られた仕事も成功させているし。

久保:たしかに好きな仕事だけしているわけではありません。いただいた仕事は断らないことにしていますから。フリーランスになったからこそ経験できたことも多いですね。

二瓶:久保さんの立場は、仕事を引き受けるかどうかを自分で決められる。だから、一度引き受けてしまったら自分事として最後まで一生懸命にやれる。もし社員だったら途中で潰れちゃうかもしれません。結局、「やらされ仕事」だとうまくいかないと思うんですよ。

打越亘/株式会社タニタ(ライフソリューション営業部部長)

フリーランスの部下を温かく見守る打越氏

ーー打越さんは、社員の立場からフリーランスになった人達の働きを見ていますが、どのように評価していますか。

打越:とても主体性を持って仕事していると思います。高いモチベーションを感じます。

ーーいずれは、打越さんもプロジェクトに手を挙げようと思いますか。

打越:そうですね(笑)。働き方や生き方としてはありだと思います。ただ、踏み切れないのも事実で、家庭のこと、実家の親のことを考えると、もう少し時間が必要です。ただ、この仕組みがあるおかげで、将来のことをしっかり考えるきっかけになりました。

ーーフリーランスに向いている人はどんな人だと思いますか。

打越:志が高くて、自分に強みを持っている人は力を発揮しやすい働き方だと思います。

二瓶:逆に、フリーランスになったからこそ自分の強みに気づけたり、ますます高い志で仕事したりする人もいると思います。

久保:私は、逆境をおもしろがれる人が向いていると思います。周りからは「よくフリーランスを選んだね」と言われます。私自身は、逆境を楽しめる性格なんだと思います。

日本活性化プロジェクトから学ぶことは多い

大切なことのひとつは、チャレンジ精神

この仕組みにより、社員の働き方に多様性を認めることで社員の成長を促し、社員のモチベーションを高め、主体性を持って働くことで、心身の健康づくりにつなげる狙いがタニタにはある。タニタが行った事前調査では、社員がフリーランスになることで収入アップできるというデータも。すでに成果も表れていて、2017年にフリーランスになった元社員の手取りは一人当たり平均30%ほど上がったそうだ。

世の中からはこの仕組みが「社員の首切り」に利用されるのではないかと懸念する声もあるようだ。だが、社員が自発的に仕組みを利用できるのであれば、肯定的にとらえた方がいいだろう。

ひとつ気になることもある。タニタでフリーランスになった人達は、タニタと仕事をしている限り収入の心配がなく、会社の支援も手厚いため、居心地がよくてそこに安住してしまう可能性があることだ。会社はそれを望むかもしれないが、働き手にとってはフリーランスになった意義が少し薄れてしまわないだろうか。フリーランスの醍醐味である「働く時間・場所・相手を選ぶ⾃由」をすべて手にしてもらいたい。

いずれにしても、タニタの革新的な取り組みは学ぶことが多く、フリーランスになった人達のチャレンジ精神は日本の働き方に一石を投じている。この仕組みに追随する企業や働き手がどんどん現れれば、一億総活躍社会の実現も近くなるだろう。

インタビュイープロフィール

久保彬子/株式会社タニタ(ブランド統合本部 新事業企画推進部)
久保 彬子
株式会社タニタ ブランド統合本部 新事業企画推進部
2007年タニタに入社し、国内営業を担当。2017年、第1期から日本活性化プロジェクトに参加すると同時に「新事業企画推進」担当に。

打越亘/株式会社タニタ(ライフソリューション営業部部長)
打越 亘
株式会社タニタ ライフソリューション営業部 部長
1996年入社。2017年に2名の部下が日本活性化プロジェクトに参加し、これまでに4名の日本活性化プロジェクトメンバーが働く部門の部長を務めている。

二瓶琢史/株式会社タニタ(社長補佐)
二瓶 琢史
株式会社タニタ 社長補佐
新卒で入社した自動車メーカーを経て、2003年タニタに入社。2011年から総務部長となり人事総務全般を統括。2017年に日本活性化プロジェクトメンバーとなり、日本活性化プロジェクトの推進業務や社長補佐業務などを受託している。

働き方や職場の悩みはキャリアのプロに相談!

この記事を書いたライター
伊藤祐介

伊藤祐介

「世の中に届ける情報は自分の目と耳で確かめたものだけ』をモットーに、取材と撮影をベースにした執筆を続けています。サラリーマン経験が長く、ビジネス系のコンテンツ制作が主戦場。それでも最近はグルメ本の制作、動画制作など幅を広げています。

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