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トイアンナ

トイアンナ

慶應義塾大学卒。P&Gジャパン、LVMHグループでマーケティングを担当。独立後は主にキャリアや恋愛について執筆しつつマーケターとしても活動。新著『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』が2万部を突破。 ブログ:「トイアンナのぐだぐだ」 http://toianna.hatenablog.com/ Twitter: https://twitter.com/10anj10

2020年5月13日

優しいあの子が部下つぶし 管理職になって初めて知ったこと・後編【キャリアの傷痕】第21回

トイアンナさんによる連載「キャリアの傷痕」第21回。この連載では「キャリアに傷がない人間なんていない。でもそこから得る“ジョイ”があるはず」という観点で分析・取材を進めていきます。

第21回は、天使・女神との評判名高かった木下 凛さん(仮名)が、管理職になってから「部下つぶし」となってしまった経緯を追います。

前編:天使キャラで愛されたのに管理職では部下つぶし…木下さんの過去を振り返る

部下にはセンスと愛がないんです

キャリアで行き詰まってしまった女性

「変なことを言われても、笑ってかわしていけばいいんです。愛想よくやっていきたいんです」と、やわらかな笑顔で語っていた木下さん。ところが、そのやり方は管理職になってから、通じなくなったという。

ーー木下さんは、どういった方針で部下を指導されていたんですか?

木下凛さん(以下、木下):うーん、とりたてて変な指導はしていないんですよ……。みんな、頑張ってくれていました。ただ、残念ですけど、部下には人から信頼されるセンスがなかったかも……とは思いました。

ーー信頼されるセンスがない、とは?

木下:なんて言ったらいいのか……。ほら、たとえばね、お仕事ってまず信頼じゃないですか。部署の中でも、人から任された仕事をミスなくこなしてね、それで初めて別の仕事をもらって、ステップアップしていって……。

そこでほかの部署とうまく調整できなくて、病んじゃう子が多かったなあ、って。もちろん、他部署との相性もあると思うんですよ。ただ、お仕事ですからね。それを乗り越えないと。

ーー確かに、仕事なら苦手な方とも渡り合う力は必要ですよね。そこでほか他の部署との調整で悩んでいた部下に、木下さんはどんな指導を?

木下:うーん、いろいろ言ったと思います。もっと「チームへ貢献する愛があればわかるはずだよ」とか、もう少し相手の気持ちを考えようね、とは伝えました。あとはもう、人としてのあり方かたとか、センスの問題だと思うんです。察する力があれば、ほか他の部署が困っていることを助けられたり、普段から仲良くできるはずですから。

業務インタビューに立ち込める暗雲

キャリアで行き詰まってしまった女性

正直、ここでインタビューを打ち切ろうか悩んだ。木下さんの部下指導法には、明確に問題がある。しかも、それを本人がまったく自覚していなかったからだ。

部下指導の問題点(1)センス・愛など曖昧な言葉で指導する

ほかの部署との折衝で部下がつまづいたとき「チーム愛が足りない」「センスがない」などのフィードバックでは、部下が次にどう動けばいいかわからない。だから、次も同じミスを繰り返しただろう。

部下指導の問題点(2)愛想で乗り切る手法を部下へも伝えた恐れがある

前編で木下さんは、社内にセクハラまがいのコミュニケーションがあったことを認めている。そして、木下さん自身は「愛嬌でかわす」手段に出た。木下さんは名言していないが、部下となった方も、同様のセクハラに遭った可能性が高い。

だが、木下さんは「もう少し相手の気持ちを考えようね」とフィードバックしている。これでは、セクハラも黙認しているのと同じだ。

木下さんは「セクハラをかわす」ことを悪いとは思っていない。むしろ、それができる社員こそ「上手」だと思っている。これでは、部下が他部署からのセクハラで病んだとしても不思議ではない。

管理職になる訓練を受け損ねた不幸

部下へのフィードバックにも技術がいる

とはいえ、木下さんは悪人ではない。実は「ある特殊な事情」が、木下さんを指導下手にしていたのだ。

ーー木下さんが管理職になるうえで「管理職としての指導」は受けましたか?

木下:管理職としての研修は、受けたことがないですね。もともと私、異例の出世をさせていただいてしまったので……。あと、私の部署は社長直下なんです。社長には部下の指導法を教わるよりも、目の前のビジネス上の話をせざるを得ません。社長も忙しいですから。

周りに私と同じ職位の方はいらっしゃいますが、みなさん10歳以上年上ですし……。そういえば、周りの方がどうやって部下を指導しているかは、考えたこともなかったですね。

どうしても、というときは部下の愚痴を聞いてもらうことがありました。そうすることで、(その管理職から私の部下へ)指導をお願いもしていました。

ーーつまり、木下さんご自身が指導をするスタイルでもなかった。

木下:そうですね。みなさんに助けていただいて、部下をご指導いただいた形です。

なんということだ。木下さんは部下の指導すら「年上に甘えさせてもらう」ことでかわしてきてしまった。それでは木下さんの指導スキルは上がらない。

さらに、他部署の管理職から「あなたの上司から、あなたについて愚痴を聞いたんだけど」と言われれば、部下はますます追い詰められただろう。こりゃあ、10名中7名の部下が離脱するわけである。

木下さんは「何かがおかしいな」と感じ始めていた。だが、「何かがおかしい」くらいでは、これまでのやり方を変えることはできない。

「年配に甘えさせてもらい、トラブルをうまくかわす」成功体験をすべて翻し、ゼロから管理職としてやり直すくらいの覚悟がなければ、木下さんは真のマネージャーになれないだろう。

答えの無いまま、私は帰路についた。

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