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伊藤璃帆子

伊藤璃帆子

芸術大学で美術、写真を学び、ITマーケティング会社を経て、独立。現在フリーでライター、編集、撮影、イラスト、フードスタイリングなどを手掛ける。

2020年7月28日

いまだから知っておきたいダイバーシティとは?多様性を認め合う社会での働き方

昨今、よく耳にする「ダイバーシティ(多様性)」という言葉。「誰もが差別や偏見なく働けるのが本来あるべき社会の姿である」という考えが世の中であたりまえになってきており、いま企業でもこの価値観を重要視するところが増えています。ダイバーシティのある社会とは、人種、性別、年齢、外見、障害といった目に見えることだけでなく、出身地、宗教、価値観などの目に見えないことも含めてあらゆる違いを認め合い、その違いを利点としていかしていく社会のことです。

今回は、ダイバーシティについて理解を深めながら、予想される社会の変容について考えてみましょう。

ダイバーシティ(多様性)の意味とは?

多様性をいかす取り組みが始まっている

日本は、文化的背景を理由にダイバーシティが浸透しづらいといわれており、まだピンときていない方も多いかもしれません。ダイバーシティとは何か、そこからじっくりと理解していきましょう。

ダイバーシティの意味

「ダイバーシティ(diversity)」の直訳は「多様性」となります。もともとアメリカで起きた、社会的マイノリティや女性への差別を取り払い、就業機会の拡大を目指す動きのなかで使われ始めた言葉です。近年、ビジネスの場ではあらゆる違い(性別、人種、民族、宗教、国籍、年齢、性格、学歴、価値観などの違い)のある人たちに積極的に職場を提供することで、企業としての社会貢献を果たしながら社会的地位も向上させる効果を持つ経営戦略の意味で使われています。

このダイバーシティに素早く柔軟に対応していくためのビジネス上の戦略のことをダイバーシティマネジメントといいます。いままでの社会通念にあった垣根を取り払い、多様な属性を取り入れるこうした動きは、企業経営においてますます不可欠になっていきます。

企業が取り組むダイバーシティマネジメントとは

多様な人材をいかす企業戦略=ダイバーシティマネジメントとは、企業で多様性を取り入れていくためのプロセスです。このプロセスを通し、事業の成長や企業の発展を促すことが目的です。従来の固定化された人材募集の枠組みから離れ、多様な人材を採用することでイノベーションが生まれると考えられています。

ダイバーシティマネジメントのメリット・デメリット

ダイバーシティマネジメントでイノベーションが起こる!

ダイバーシティマネジメントを導入すると、企業には以下のようなメリットが生まれます。

  • 優秀な人材の確保(グローバルな求人など)
  • 人材の採用方針や採用方法、社員育成方法の刷新(キャリアパス研修の充実)
  • 社会的な企業イメージの向上
  • 多様な価値観、意識を持った人材による新しい価値(商品やサービスなど)の創造

画一化された組織と比較した場合、柔軟性、品質、スピード感は、ダイバーシティマネジメントを採用している組織のほうが勝ります。また、社員の意識が高くなれば、ハラスメントの発生リスクを抑制できます。

社員側から考えてみても、たくさんのメリットがあります。

  • 心理的安全性(個人として組織との結びつきを実感できる)
  • 適材適所(個々の能力や特徴を理解した人材配置が行われ、より活躍できる場が増える)
  • 協業意識の向上(さまざまな人たちとの交流で視野が広がる)

しかし、デメリットや課題があることも確かです。

  • 多様な人材(違い)が軋轢を生み、対立や摩擦が起きやすくなる
  • 異なった価値観や意見が錯綜しやすい
  • チームでの作業が難しくなり、連携がうまく作用しない可能性
  • 社内評価が難しくなり、単一な評価では不公平感が生まれかねない

このような課題は、努力次第で解決できることです。企業内人事の基礎力が試されることになるかもしれません。

ダイバーシティマネジメントを導入する企業とは?

多様性を受け入れ、グローバルに展開する企業の成長を注視しよう!

ダイバーシティマネジメントを導入している組織のなかには、社内での人材の配置や登用や採用に至るまで、組織全体を根本から再構築するほどの規模感で取り組む企業さえあります。

※ダイバーシティマネジメントを導入している企業(例)

  • 第一生命保険株式会社
  • 日立グループ
  • ANAグループ

企業側のメリットだけではありません。就活生や就活者の場合は、差別や格差が解消され雇用機会が増えます。また、社員など就業中の方ならより能力をいかせる業務や役職、職域へのシフトが容易になります。子育て世代に対する育児休暇、介護休暇による労働時間短縮も考えていく必要があります。ライフステージが変わるなか就業を継続できるようにしていくことも、ワーク・ライフ・バランスの観点から重要視されています。

違いがある部分を認めるだけでなく、違うことそのものに価値を見出すところから、多様性に富んだ組織が動き始め、それまで画一的だった組織では考えられなかったような発想や価値観が生み出されるのです。

ワーク・ライフ・バランスとダイバーシティ

勤務形態の柔軟性によってワーク・ライフ・バランスを推進する

早急に働き方を変えなければ、労働人口減少の問題を解決することは難しいとされています。改革を速やかに実施していく必要があり、政府も「働き方改革関連法」を2019年4月から順次施行しています。2019年に厚生労働省が発表した「働き方改革」の定義が以下です。

働く人々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにするための改革

企業はダイバーシティマネジメントを導入する過程で、勤務形態に柔軟性を持たせることが必要です。テレワーク、時差通勤を促すフレックス制の拡充はもちろん、これまでは高度に専門的な職務に限定されてきた裁量労働制(※)も一般職へシフトしていくかもしれません。働き手は自立した自己管理能力を問われることになりますが、それに見合う裁量権を持つ将来像が見えてきます。

こような状況は、仕事の時間とプライベート時間についても、個人の選択が可能になります。仕事(ワーク)と生活(ライフ)の均衡(バランス)を、各自で調整するのがあたりまえになるパラダイムシフトが社会現象として起こり、浸透してきています。

そのため、企業による働き手にマッチするような労働環境の整備が進んでいます。リモートワークやサテライトオフィス、コワーキングスペースの利用など、勤務地も多様で柔軟に対応する形に変化しています。

※裁量労働制
=仕事の方法や労働時間を「労使協定」で定め、それに基づいて賃金を計算する制度。(実際の勤務時間は対象外)現在は、一部の業務のみが対象。

新型コロナで加速するダイバーシティ

コロナ禍の影響で就業環境の多様性も躍進しました。オンラインでの業務や面接、会議、セミナーを行ったり、参加したりする機会が大幅に増加したのはその一例です。これまでにもデジタル・トランスフォーメーション(ITが人々の生活にもたらす恩恵)を経てきたことも相まって、就業環境の変容は加速しつづけているようです。

一方で、新型コロナウイルス感染症が終息する気配がなくても、これ以上経済活動を停滞させることはできないという切実な問題から「ウィズ・コロナ」「ニュー・ノーマル」といわれる新しい生活様式が求められています。

ウィズ・コロナの社会環境では、企業や働くすべての人にさまざまな変化が求められます。企業活動自体に影響が出て、人員整理をやむなく行う場合もあるでしょうし、個人事業主であっても仕事の先行きは不透明です。こうした事態を少しでも緩和していくためには、働き方に柔軟性が求められることは明白です。

「ウィズ・コロナ」によって企業が組織を再構築し、社員の再配置を行うようになれば、人材の流出が起こります。なぜなら、求められる人材(能力、スキルなど)がさほど変わらなくてもダイバーシティマネジメントによる業務効率化で、何でも適度にこなせる人がほどほどにいる状態よりも、業務毎に能力のある少数精鋭がいる状態でこそ成長が望めるようになると考えられるからです。

また、コロナ禍で人々の関心が集まる都市集中型からリスク分散を可能にする地方分散型への移行もダイバーシティの概念が浸透することで推進力を得たといえます。地方に暮らす有能な人材が、その能力を存分にいかす時代が来たということです。

人材募集も、これまでのようなメンバーシップ型(職務内容、勤務地を特定せず、社風などにマッチした人材を活用)からジョブ型(職務内容を特定して能力、スキル、経験などを重視して採用)に移行すると予想されます。

ダイバーシティ&インクルージョンとは?

違いを受け入れ、互いに作用する「ダイバーシティ&インクルージョン」とは?

最近は「ダイバーシティ&インクルージョン」という言い方で表現されることが多くなっています。これは、ダイバーシティとインクルージョンをセットで運用することが、それぞれの課題を補い合う相乗効果が生まれ、より効果的に作用することがわかってきたからです。

ダイバーシティは「人材や就業環境の多様化」を行うプロセスという意味で、インクルージョン(包括)は「多様化を受け入れ、相互に作用している状態(環境)」といったニュアンスで用いられます。企業内(組織内)において、すべての社員が各々の能力・経験・考え方を認め、お互いがいかされ合う関係であることを理解しておきましょう。

多様性と相互作用を合わせた施策に取り組むには、個人の意見を尊重し、提案を聞く素地(制度、社風など)が必要です。個々の能力を存分に引き出し、多様な人材の定着だけでなく、優秀な人材の定着率アップや企業全体のモチベーションアップにつながります。

ただし、インクルージョンについては、新しい取り組みであることや、数値的な結果に直接つながる施策でないことが多いため、効果が可視化しにくいといわれています。そのため数字のみで経営戦略を立てようとする経営層の意識改革や人事についてのシステムや制度・施策に細かい配慮が必要となり、それらがインクルージョンに取り組む際の高い壁となっています。しかし、社会全体を俯瞰して未来像を考えるとき、避けては通れない過程なのです。

差別を乗り越え、新しい雇用を促進する一助に

世界は、ダイバーシティ&インクルージョンの社会へと進んでいます

少子高齢化に伴い将来的に労働力不足が懸念される日本では、どんなにデジタルシフトを加速させてもすべての課題をカバーできるわけではありません。

ひとつの策としてのダイバーシティ&インクルージョンは、企業だけでなく個人にも影響することから、社会環境全体に効果が期待されています。働く意思と能力のある人なら、「誰にでも働く機会が与えられ、活躍することができる社会」の実現が、ダイバーシティ&インクルージョンの目標です。

時間はかかるかもしれませんが、この目標が達成されれば、距離的、時間的問題の解決ばかりでなく、あらゆる違いをプラスに変換できる体制が整います。そうなれば、「多様で柔軟な、新しい労働力」が生まれ続ける社会になっていくのです。

ひとつの例ですが、日本に来て働く外国人は増えつづけています。国内の就労外国人は、約166万人(2019年:厚生労働省発表)にのぼり、在留資格「特定技能」が2019年に新設されるなど、人手不足が顕著な業界で外国人労働者を積極的に受け入れる環境が整いつつあります。

しかし、コロナ禍となり海外からの人材流入は激減しました。終息しても以前の状態にまで回復するには数年かかるかもしれません。そうすると、なおのこと国内の潜在的人的資源を地方にも求める動きが加速します。コロナ禍の影響で急進したさまざまな勤務体系は、都市と地方の距離がさほどリスクでないことが実証されました。

また、日本では女性管理職が圧倒的に少ないことも注視されています。ダイバーシティマネジメントの導入で、女性も組織の重要なポストを得て活躍する機会が増えると期待されています。

2050年、日本の人口は1億人を下回る

人口減少の危機を解決する多様な人材確保が求められる

出産率が減少低下傾向にある現在、このままでは2050年には日本の人口が1億人以下になると推測され(国土交通省、総務省資料より)人手不足が深刻な事態になることが懸念されています。前述したとおり、この数字は、業務のデジタル化や効率化などでカバーする程度では根本的な解決には至らないことを示しています。海外からの人材採用の推進地方分散・多極型の働き方にする必要に迫られることが予想されます。そのためダイバーシティの概念が社会と企業に浸透していることが求められます。

「アフター・コロナ」「ウィズ・コロナ」という言葉が使われるようになり、新しい社会環境に対応するため、企業も個人も職場環境の見直しを迫られています。大多数が一方向をみて盲目的に進行するのではなく、それぞれが多様な方向性を持ちながら、意見交換し、協力して良い方向を模索するための社会環境をつくっていくことが不可欠です。

「協働」という意識が定着するまで

さまざまな「違い」を乗り越えて、何かを成し遂げるためには、相互理解と情報の共有、そして何より「目的に向かって協力し合う気持ち」がなければなりません。
そのためには、たとえば企業なら人事担当が以下のような施策を考え、実行していくことになるでしょう。これらは、企業側にとってもよい経験になり、ダイバーシティ&インクルージョンの進行度を把握することもできます。

  • 評価制度の見直し
  • 提案制度の導入(社内のあらゆる就業者からでも建設的な意見やアイディアを掬い上げる)
  • ダイバーシティ&インクルージョンに関する社内研修
  • 従業員の満足度調査
  • 個別面談、アンケートなど

まだまだ発展途上のダイバーシティ&インクルージョンですが、無意識の差別や偏見に気づくことができれば、多様性の理解度はさらに高まります。これからの社会は、個人の持つ経験や能力を多様性として理解し、受け入れていくことでより良い環境を創造できるでしょう。たとえ、すぐには多様性を受け入れることができなくても、最小限、理解し、協力する気持ちが求められています。

まとめ:危機的状況下だからこそダイバーシティへの理解が求められる

新型コロナウイルスが世界中を席巻している現在、経済の閉塞感を打開し、持続可能な成長を続けるためにいま必要なことはどんなことでしょうか。

テレワーク、在宅勤務、オンライン会議をはじめ就業形態は著しく変化しています。デジタル化は加速度的に社会に浸透し、遅れをとっていた日本でもかなりの進歩がありました。この流れは不可逆的に、今後、一層進んでいくはずです。目下問題視されている人材不足とコロナ禍に対し、私たちが社会人として取り組むべきことのひとつがダイバーシティを理解することなのです。

インターネットが世界中の距離を縮めたように、多様性のある世界を理解することは、新たなイノベーションとなり、力強く人類を後押ししてくれるはずです。

出典:ダイバーシティ&インクルージョン-第一生命保険株式会社
出典:ダイバーシティ&インクルージョンの取り組み事例-日立
出典:ダイバーシティ&インクルージョンの推進-ANAグループ
出典:働き方改革特設サイト(支援のご案内)-厚生労働省
出典:5分で分かる「働き方改革」とは?取り組みの背景と目的を解説-ボーグル

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芸術大学で美術、写真を学び、ITマーケティング会社を経て、独立。現在フリーでライター、編集、撮影、イラスト、フードスタイリングなどを手掛ける。

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